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「魔性の女」挿絵(イラストレーション)展

2013年06月01日号

会期:2013/04/04~2013/06/30

弥生美術館[東京都]

少女読者向けに描かれた「カワイイ」女性像を取り上げることが多い弥生美術館の展覧会であるが、今回の展覧会のテーマはその対極とも言える「魔性の女」である。明治末から昭和初期にかけて、日本文学にさまざまな魔性の女たちが現われる。夏目漱石『虞美人草』(明治40)の藤尾、谷崎潤一郎『痴人の愛』(大正13)のナオミ、江戸川乱歩『黒蜥蜴』(昭和9)の緑川夫人などはその代表的な例であろう。そしてそれらの物語には同時代の画家たちによってすばらしい挿絵が添えられた。本展では小村雪岱、高畠華宵、蕗谷虹児などの画家のほか、橘小夢、竹中英太郎、水島爾保布、月岡夕美など、歴史に埋もれてきたイラストレーターたちの作品約400点が紹介されている。
 いったい「魔性の女」とは何者なのか。学生たちに聞いてみると、美人であることを前提として、自らの欲望に忠実で、そのために男性を支配するが、それが必ずしも意識的に行なわれるとは限らず、単純に「悪女」とは言い切れない女性像がイメージされる。人物としては、壇蜜、沢尻エリカ、杉本彩、芹那、吉高由里子、峰不二子などの名が挙がった。本展で紹介されている小説に現われ、挿画に描かれた女性像も多様で、妖艶な魅力によって男性を滅ぼす者もいれば、自らが恋に滅ぶ者もいる。「カワイイ」とされる女性像がおもに無邪気で受け身な少女として描かれるのに対して、意志を持った大人の女性として描かれているところが「魔性の女」たちの一般的な特徴といえようか。その意志の強さが、ときに男性を翻弄して破滅へと追いやる女性として、またときには逆に自らを破滅させる人物として描かれてきたのであろう。他方でそうした女性たちが描かれ、人々に受け入れられたのが、日露戦争終結から満州事変勃発までの短い期間であったことは、挿絵の歴史を見るうえで意識しておきたい。[新川徳彦]


左=橘小夢/画「水魔」
右=水島爾保布/画「人魚の嘆き」
ともに提供=弥生美術館

2013/05/09(木)(SYNK)

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