artscapeレビュー
高田冬彦「メメント・モリ──愛と死を見つめて」
2013年06月01日号
会期:2013/05/23~2013/05/24
白金アートコンプレックス[東京都]
白金のビルに集合したギャラリーが、5周年を祝し杉本博司のキュレーションで合同展を行なった。ぼくはここで、以前にもartscapeで論評したことのある若い作家の作品を一点だけ取り上げることにしたい。ブリトニー・スピアーズになりきったり、食虫植物に変身したりと、これまでの高田冬彦の映像作品は、たいてい、高田本人が出演することで観客を挑発し戸惑わせてきた。しかし、本作《LOVE EXERCISE》はそこがちょっと違う。動画の画面には全裸に近い女が一人(しばらくすると女の務めた仕事を男が行なう)。女の体には掌ほどの大きさのお面があちこちに貼りついていて、男も女もいるのだけれど、その表情はどれも口を尖らせて恍惚としている。そこにおもちゃのような天使が現われ、「ここの子と、ここの子にチューさせて……ああもういいや、今度はこっちの子とあの子……」などといった気まぐれな指令を裸の女に与える。たとえば、胸の脇に着けたお面と太もものあたりに着けたお面をキスさせるとなると女はたいへんだ。スパルタのインストラクターにこらしめられているみたいに、苦しそうにしながら、女は体を丸めて面と面(口と口)を必死に合わせようする。無理難題をもちかける意地悪な天使によって、口を尖らせた男女が、もがく女の体の上でキスを試みる。ペアは男女とは限らない。男男も女女も女男女もある。この天使まかせの乱交的状態に眩暈のようなものを感じてくらくらしつつも、恍惚感が溢れてきて見ることがやめられない。これは愛をめぐる天使と恋人たちの物語であり、同時に天使と天使に指令される裸の女(男)とのSM的物語である。この二つの物語が二つの歯車となり、かみ合い、進む。愛というものの姿がこれほど赤裸々に語られていいのか、そう思うほど見る者の心と肉体を強く刺激してくる。高田の作品の特異性は人間を見つめるその眼差しの力にある。美しく価値ある人間のみならず、自己中心的で、露出症的で、ときに愚かときにずるい、自らの欲望に忠実な人間。この大衆的で俗悪な人間というものの実相に、高田はさらに一歩迫ってみせた。
2013/05/15(水)(木村覚)