artscapeレビュー
牧口英樹/エレナ・トゥタッチコワ「はじまりのしじま」
2015年12月15日号
会期:2015/10/10~2015/11/14
Takuro Someya Contemporary Art[東京都]
東京・南麻布に新しくオープンしたギャラリーで、日本人とロシア人の写真家というやや異色の組み合わせによる二人展が開催された。牧口英樹は1985年、札幌生まれ。エレナ・トゥタッチコワは1984年、モスクワ生まれ。年齢が近いこと以外に、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程に在学していた(エレナは現在博士課程に在学中)という共通点がある。どちらの作品も、中判カメラで細やかに描写された風景ということに違いはないが、被写体のあり方はかなりかけ離れている。彼らが執筆した、とてもよく練り上げられたコメントによれば、牧口は「都市や環境における人の不在を通じたその『存在』を強く感じ」を、エレナは「自然の中にある人々が、その『存在』を普遍にして」いるというのだ。
ここで彼らが「存在」という言葉で言いあらわそうとしているものこそ、本展の主題である「静寂」(しじま)である。いうまでもなく、写真からは音は聞こえてこない。写真にとって「静寂」は本質的な属性である。だが、だからこそ、逆に「静寂」という状態が「聞こえる」(感じとられる)ものとして立ち上がってくる。牧口とエレナは、それぞれ「都市や環境」、「自然の中にある人々」(モスクワ郊外の夏の情景)を撮影することで、「静寂」に耳を傾け、その「はじまり」を見つめ直そうとしている。そのことが、緊張感を保ちながら、どことなく懐かしさに胸を突かれるような場面として定着されていた。二人とも、写真家としての自分の作品世界が明確に形をとりつつある、とても大事な時期にさしかかっているように感じる。次の展示が楽しみだ。
2015/11/06(金)(飯沢耕太郎)