artscapeレビュー

笹岡啓子「SHORELINE」

2015年12月15日号

会期:2015/10/29~2015/11/27

photographers’gallery[東京都]

笹岡啓子は東日本大震災以降、2012~13年にかけて三陸沿岸と阿武隈山地の村々を撮影し、「Difference3.11」と題する展覧会を開催し、B5判の小冊子『Remembrance』(全41巻 KULA)を刊行し続けてきた。それらが完結したのを受けて、2015年以降に「SHORELINE」のシリーズを発表しはじめている。本展は2015年6月に開催された同名の展覧会(「秩父湾」を展示)に続くもので、小冊子『SHORELINE』(KULA)もすでに18冊刊行されている。
今回の展示は「香取海」と題され、茨城県の霞ヶ浦の周辺で撮影されたものだ。このあたりは1000年前には関東平野のかなり奥まで海が入り込んでおり、現在とは「海岸線」もかなり違っていた。前回展示した「秩父湾」もそうなのだが、笹岡が試みようとしているのは数千年、数万年の単位で変動していく地勢の変化を、写真撮影を通じて探りあて、「時制を超えた地続きの海」の在処を浮かび上がらせていくことにある。一方、『Remembrance』の完結後も撮り続けられている三陸、福島の被災地域の「海外線」もシリーズの中には組み込まれ、今回、隣室のKULA PHOTO GALLERYで展示されていた「若狭湾」のように、原子力発電所のある風景も視野に入ってきている。つまり、現在と過去の時制が、「海岸線」でせめぎ合うような状況を見つめ直すことが、笹岡のもくろみなのであり、このシリーズはより多様な広がりを持って展開していくのではないだろうか。
とはいえ、笹岡の作品によく登場して来る釣り人たちの姿を画面に取り入れた今回の「香取海」は、主に雨の日に撮影されていることもあって、縹渺とした寄る辺のなさがさらに強まり、魅力的なたたずまいの作品に仕上がっている。つげ義春の一連の「旅もの」の漫画(「枯れ野の宿」1974年など)の描写を思い出してしまった。

2015/11/10(火)(飯沢耕太郎)

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