artscapeレビュー
仲田絵美「よすが」
2015年12月15日号
会期:2015/11/03~2015/11/09
新宿ニコンサロン[東京都]
仲田絵美は1988年、茨城県出身。本作は2013年に第7回写真「1_WALL」展でグランプリを受賞し、2015年に赤々舎から写真集として刊行された。
仲田は10歳の時に母親を亡くしたのだが、その遺品はずっとそのままになっていた。ところが父が定年を迎え、それらを処分することになったのをきっかけにして、2011年頃から撮影を開始する。時計、手帳、人形などの遺品だけでなく、母が遺した衣服は自分自身が着用して、セルフポートレートとして撮影していった。また、母の服を着た仲田が、子供時代の自分の服と一緒に写っている写真もある。今回は、写真集におさめた作品をさらにセレクトして、42点が展示されていた。
石内都の「mother's」を例に引くまでもなく、娘が母親の記憶をその遺品を手がかりにして辿るという行為は、ごく自然な気持ちの発露であるように思われる。母親の服を身につけて撮影するというアイディアも、その延長上に出てきたものだろう。ことさらに感情移入しているわけではないが、やや緊張感をともなった、丁寧な撮影ぶりに接していると、観客も「母と娘」のストーリーに無理なく引き込まれていくように感じる。
写真展と写真集の刊行で、このシリーズも一区切りがついたので、次に何をやりたいのかが気になった。仲田に訊くと、自分だけではなく、他者たちを含めた共通の経験を重ねあわせていく方向に進みたいという答えが返ってきた。とてもいいと思う。写真だけでなく、映像(動画)や聞き書きのテキストなども組み合わせていくといいのではないだろうか。
2015/11/08(日)(飯沢耕太郎)