artscapeレビュー

パラモデル展:パラ基準と変調

2015年12月15日号

会期:2015/10/31~2016/03/13

下山芸術の森 発電所美術館[富山県]

「基準」と「変調」というタイトルの示唆的な2つの言葉は、パラモデルの作品、とりわけ無限に生成・増殖していくワーク・イン・プログレスとしてのインスタレーション作品の特質をよく表わしている。「基準」は、グレーの塩ビパイプや鉄道模型のプラレールといった基本ユニット、すなわち規格化された工業製品、分節化された単位を接続することで、全方位に無限に拡張・増殖可能であることを指す。一方、「変調」は、仮設的なインスタレーションの宿命としての場への依存、すなわち場が「変数」として関与することを示唆する。「変調」をもたらす現実の場、それは物理的な展示空間の尺度や制約に加え、場所のもつ歴史的・社会的コンテクストも含んでいる。2013年の銀座のメゾンエルメスでの個展では、レンゾ・ピアノが設計した建築物のガラスブロックのモジュール性やグリッド構造が反復され、あるいはブルーノ・タウトの描いた理想都市の構想が参照されていた。今回の個展では、約10mの天井高という空間的なスケールの大きさに加えて、大正時代に建設された元「発電所」という場所の来歴も大きく関わってくる。
接合と増殖を繰り返し、縦横無尽に伸びるパイプラインは、都市や産業の基盤を支える地下構造やインフラ、その無限に拡張していく欲望を可視化する。作業台、壁、床、天井に寄生するプラレールは、限りなく分岐・拡張していく鉄道網を繰り広げながら、玩具の模型やフィギュアの併用とともに工業地帯/山脈/農地を切り分け、大地を俯瞰的に描いていく。所々に添えられたクレーンやトラックの玩具に加え、設営道具や素材の入った箱、脚立や作業用の足場もむき出しに置かれているため、原理的に「完成形」がなく、生成途上にあることが強く印象づけられる。つまりここでは、近代化を支えた発電所跡という、産業や都市のかつての基盤の中に、都市構造やインフラが可視化され、巨大な生成プラントが出現し、入れ子状になっているのだ。分岐と接続を繰り返しながら多方向に伸び広がっていく自己増殖的な運動、そこには物理的な起点や中心はない代わりに、「近代産業化を支えた場所」という意味レベルでの求心性が働いている。
だが、無限に生成・増殖・拡張することへの欲望がはらむ制御不可能さ、ユートピアの抱える闇を、既に私たちは知ってしまっている。であるならば、会期中も公開制作を続けるパラモデルには、場所のコンテクストに「寄生」しつつ、それを内部から食い破る様を見せてほしい。それが、アートに可能な力のひとつであるだろう。


会場風景

2015/11/07(土)(高嶋慈)

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