artscapeレビュー

タイルとホコラとツーリズム season3 《白川道中膝栗毛》

2016年09月15日号

会期:2016/08/19~2016/09/04

Gallery PARC[京都府]

京都の街角には、地蔵菩薩や大日如来などを奉ったホコラ(路傍祠)が今も多く残る。それらは地域信仰の証であるとともに、しばしば目にするタイル貼りの土台を持つホコラは、明治期以降に日本に導入された「タイル」という建築資材の歴史や、補修を加えながら受け継いできた地域住民の工夫を物語るものでもある。
観光ペナントの収集・研究や、マンガやデザインも手がける谷本研と、〈民俗と建築にまつわる工芸〉という視点からタイルや陶磁器の理論と制作を行なう中村裕太。2人の美術家が、「ホコラ」と「タイル」をそれぞれのポイントとして捉え、地域における「ツーリズム(観光)」の視点から考察したのが、2014年の「タイルとホコラとツーリズム」展。「ホコラ三十三所巡礼案内所」をイメージした会場構成がなされた。翌2015年には、「地蔵本」の出版を目標に掲げた「タイルとホコラとツーリズム season2《こちら地蔵本準備室》」展を開催し、資料や文献を集めた「ホコラテーク」が会場内に開設された。
プロジェクトの3回目となる本展「season3 《白川道中膝栗毛》」では、資料収集の中で2人が出会った書籍『北白川こども風土記』(1959)が出発点となっている。この本は、北白川小学校の児童たちが3年間かけて調べた郷土の文化、風俗、歴史をまとめたもの。なかでも、京都~滋賀県の大津を繋ぐ要路であった白川街道を実際に歩き、「蛇石」「重ね石」などと呼ばれるスポットを巡った取材記事に惹かれた2人は、約13kmの街道を実際に歩く旅を敢行。男2人組の旅と言えば「弥次喜多の東海道中」、そして「膝栗毛」(膝を栗毛の馬の代わりにする旅。徒歩旅行)ということで、茶色いポニーを連れて、道中で出会うホコラや石仏に花を手向けながらの旅となった。会場には、記録映像とともに、旅の工程表や弁当箱、馬の鞍といった「旅の記録」が展示された。
路上観察、民俗学、タイルという西洋の建築資材の定着、地域信仰など、アートの周辺領域を横断的に考察してきた「タイルとホコラとツーリズム」だが、本展では、「ツーリズム」により焦点が当てられている。大津に到着後、鞍に付着した大量の馬の毛を目にした2人は、抜け毛で筆をつくり、「大津絵」(江戸時代から、東海道を旅する旅人の土産物・護符として描かれた民俗絵画。神仏、人物、動物がユーモラスなタッチで描かれ、道歌が添えられる)を模した馬の絵を制作した。
「街道を歩く」という、労働の対価としての貨幣価値に交換されない身体的行為(旅)において、それ自体は無価値な「馬の抜けた毛」が「筆」へと、さらに「大津絵」(=土産物)へと変貌を遂げたということ。ツーリズムとしての旅路を身体的になぞりながら、土産物を「思い出」として購入・消費するのではなく、消費対象を「生産する」という転倒。そうしたひねりの提示に、おおらかさの中にある彼らの機知が感じられる。


撮影:麥生田兵吾

2016/08/23(高嶋慈)

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