artscapeレビュー

2014年08月01日号のレビュー/プレビュー

林勇気 展「光の庭ともうひとつの家」

会期:2014/06/21~2014/07/13

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

自身が撮影あるいはインターネットから採集した画像をもとに、アニメーション作品を制作する林勇気。彼が新たな展開を見せた。本展では一般からのアンケートをもとに、建築家のNO ARCHITECTSが約20軒の理想の家を設計。林がその図面と写真データをもとに「もうひとつの家」を制作し、「光の庭」に配置する。そして、アンケートに答えた施主は500円で「もうひとつの家」を購入し、「光の庭」の住人になるのだ。この作品の構造は、林自身が過去にゲームの中で家を購入した経験から発想したらしい。筆者はオンラインゲームのためにお金を費やす気持ちにはなれないが、本展なら話は別である。作品のなかにマイホームを持つ施主たちが少し羨ましかった。

2014/06/21(土)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00026889.json s 10101412

あなたがほしい i want you

会期:2014/06/21~2014/07/05

大阪府立江之子島文化芸術創造センター[大阪府]

昨年にドイツのデュッセルドルフで行なわれたアートエクスチェンジ企画の報告展。陣容は、植松琢麿と林勇気(アーティスト)、小林公(キュレーター/兵庫県立美術館)、後藤哲也(オーガナイザー/FLAG)の4名。テーマは、インターネットに代表されるネットワークの普及やバイオテクノロジーの発達がもたらす知覚・創造力・身体感覚の変容、コミュニケーションにおける距離感の変化、である。特筆すべきは本展の展示スタイルで、植松の立体作品に被せるように林の映像作品が投影されていた。会場全体として上記のテーマを明確にしたのだ。デュッセルドルフでは個々の作品を展示していたが、企画意図に忠実という点では大阪展に軍配が上がるのではなかろうか。

2014/06/21(土)(小吹隆文)

長尾恵那 展 みどりいろのかたまり

会期:2014/06/21~2014/07/13

ギャラリーあしやシューレ[兵庫県]

長尾恵那の木彫作品といえば、つぶらな瞳でこちらを見つめる人物像が思い浮かぶ。特に少年をモチーフにした作品は秀逸で、その健康優良児的な存在感には有無を言わせぬ魅力が感じられた。ところが本展では作風を一転、民家の生け垣など植物をモチーフにした作品ばかりが並んでいた。出品作品には大作と小品があり、後者は一目でモチーフがわかるものの、前者は緑の巨大な球体や長方形で、抽象彫刻のようであった(画像)。彼女は実力のある作家なので、この新展開でも一定レベル以上の仕事を残すであろう。しかし、人物像を手放そうとしているのであれば、それはあまりにも勿体ない。できれば今後も、あの魅力的な少年たちと再会したいのだが……。

2014/06/27(金)(小吹隆文)

野田凉美 展「Who can possess water ?」「PTP Bijoux Fantasies」

会期:2014/06/28~2014/07/12

ギャラリーギャラリー、ギャラリーギャラリーEX[京都府]

織、染、編、フェルトなどさまざまな染織技法を用いて制作を続ける造形作家、野田凉美の個展である。会場は、「水」がテーマの展示室(ギャラリーギャラリー)と「健康」がテーマの展示室(ギャラリーギャラリーEX)の2会場。「水」の展示室には、ナイロン糸を織り込んだ布製のコートが天井から下がり、ふんわり編んだモヘアのセーターやカップ&ソーサーが壁面を飾り、浮遊するようなイメージをつくりだしている。「健康」の展示室には、薬のプチプチパッケージを極細のプラスチック糸でつないだネックレスと、リボン編みの布を張った椅子型オブジェが、幻想的な空間を演出している。
楽しく、軽く、明るい、というのが野田作品の第一印象だった。子どものような好奇心に満ちていて、つねにどこかに実験的な要素がある。本展でも、遊び心を感じる試みがあちこちに見られた。経糸に伸びやすいナイロン糸を使った布。壁面にそっと配置された、用済みになった、ジャカード織機の紋紙。身を飾る宝石として再生された、空になった薬のパッケージ。透けるほどに薄い絹布には、表から見ても裏から見ても違和感がないように、左右対称に近い形状の漢字が選ばれ小さくプリントされている。見る者がなにげなく作品に送った視線は、そういった箇所にふっとひっかかり、それが次の瞬間には発見の喜びにかわる。だから、見る者は楽しい。
多くの工芸的な作品には、ある種の緊張感があるように思う。技法と作家性・作品性との対峙と言うべきか、あるいは感性とコンセプトとの均衡と言うべきか。野田の場合もそうした関係性を意識することからは免れえないのかもしれないが、少なくとも見る者にはそれはほとんど感じられない。こだわりなく奔放に、感覚の赴くままに自由につくっているかのように見える。それもきっと、さまざまな技術の裏付けがあってこそ、溢れるような制作意欲があってこそ、はじめて可能になるのだろうと思う。[平光睦子]


展示風景


展示風景


作品(部分)

2014/06/29(土)(SYNK)

西村一成 絵画展 幻たちのブルース

会期:2014/06/28~2014/07/20

ギャルリー宮脇[京都府]

西村一成は独学の画家で、2000年頃から自身の欲求の赴くままに制作を続けてきた。作品の特徴は思い切りのいい筆致と斬新な色使いで、モチーフは人物、風景、想像の世界など実にさまざま。何よりもよいのは、どの作品も見る者の喉元にぐっと踏み込んでくるようなパワーを持っていることだ。本展では新作40点が出品され、西村の多様な作品世界を知ることができた。彼は統一的なテーマやコンセプトを持たないが、それが作品の価値を下げることにはならない。表現することの根本について、改めて考えさせられた。

2014/07/01(火)(小吹隆文)

2014年08月01日号の
artscapeレビュー