artscapeレビュー
2015年08月01日号のレビュー/プレビュー
プレビュー:ミロコマチコ「たいようでみんなまっか」
会期:2015/08/13~2015/08/18
京阪百貨店守口店7階京阪ギャラリー[大阪府]
2012年に「第18回日本絵本大賞」を受賞、2014年には「第45回講談社出版文化賞絵本賞」と「第63回小学館児童出版文化賞」を受賞するなど、いまもっとも注目されている若手絵本作家、ミロコマチコ。彼女が、百貨店では初となる大規模個展を開催する。ミロコの故郷である大阪府枚方市は京阪電車沿線の郊外都市であり、同じ沿線の守口市にある京阪百貨店での個展開催は、本人にとっても特別な感慨があるだろう。展覧会は「太陽」をテーマにした新作約40点に過去の大作を加えて構成。初日午後1時から行なわれるライブペインティングをはじめ、ワークショップ、ゲーム企画、サイン会と関連イベントも充実している。
2015/07/20(月)(小吹隆文)
中国宮廷の女性たち:麗しき日々への想い──北京藝術博物館所蔵名品展
会期:2015/06/09~2015/07/26
松濤美術館[東京都]
北京藝術博物館のコレクションから、明清時代の宮廷の女性たちが愛用した衣裳、装飾品、食器、書画や文房具など120点により、同時代の中国女性たち(といっても、上流の文化に限定されるが)の生活を紹介する企画。興味深く見たもののひとつは刺繍。手の込んだ図柄や文様に溜息が出る。もうひとつは文房具で、紫檀の墨置や文鎮、硯や墨など。西太后などの書画を除くと、ほとんどが美術品というよりは作者の名が伝わっていない工芸品であるが、だからこそ当時の女性たちの生活を物語り得るのだろう。テキストによる解説に加えて再現展示があればなおわかりやすかったように思う。[新川徳彦]
2015/07/22(水)(SYNK)
古九谷 展
会期:2015/07/04~2015/09/23
戸栗美術館[東京都]
17世紀初頭、伊万里で初めて磁器が焼かれた。初期の製品では白地に青で描く染付が主流であったが、1640年代には上絵の顔料が導入されて赤、黄、緑、紫などの色絵製品が焼かれるようになった。17世紀後半になると、いわゆる柿右衛門様式が登場し、オランダ東インド会社によってヨーロッパ、東南アジアなどへ製品が大量に輸出されるようになる。この柿右衛門様式が登場するまでの初期色絵磁器を「古九谷様式」という。もともと加賀の地に伝世してきた優品が同地の製品として「古九谷」とされていたものが、1970年代以降、発掘調査研究によって有田産説が有力となり、有田焼の様式のひとつとして「古九谷様式」と呼ばれるようになったもの(いくつかの異説があり、産地を巡る論争は決着していない)。特徴としては色遣い、文様に中国磁器の影響が強くみられる。海外輸出が始まる以前の製品が中心なので、ヨーロッパに伝わった製品のデザインとは違う、日本人好みの意匠が中心という印象を受ける。いつものことながら、技術、様式、意匠の展開をていねいに解説したわかりやすい展示。1階小展示室、現代作家の作品紹介コーナーは望月優氏。伊万里焼古陶磁の陶片を白い無地の皿やカップ&ソーサー、ポットなどに組み込んだ作品で、陶片から必ずしもオリジナルの姿を再現するのではなく、自由に形を展開しているところがとても面白い。[新川徳彦]
2015/07/22(水)(SYNK)
アール・ヌーヴォーのガラス展
会期:2015/07/04~2015/09/06
パナソニック汐留ミュージアム[東京都]
ドイツの実業家ゲルダ・ケプフ夫人(1919-2006)が蒐集し、1998年にデュッセルドルフ美術館に寄贈したアール・ヌーヴォー期のガラス工芸コレクション約140点を紹介する展覧会。同コレクションがドイツ国外で展示されるのは初めてだという。展示はパリとアルザス=ロレーヌの二つに地域に分けて構成されている。パリの製品は、19世紀末、日本の浮世絵や中国の乾隆ガラスなど、東アジア地域から影響を受けた意匠。北斎の木版画から引用されたと考えられる布袋や鯉など、直接的な引用が見られる。ガレやドーム兄弟が活躍したフランス北東部ナンシーを中心とするアルザス=ロレーヌ地方では、東洋美術の影響を受けながらも、独自のスタイルのガラス器がつくられた。
アール・ヌーヴォーの(アール・デコもだが)ガラスは日本でとても人気があり、ケプフ夫人のコレクションが日本に巡回するのもそれゆえと思われる。しかし、他方で日本国内には質・量ともに充実したコレクションがあり、もちろんフランスのナンシー美術館にも多くの優品が収蔵されている。そうしたなかでわざわざドイツのコレクションを見るのだから、ただアール・ヌーヴォーのガラスを楽しむだけではなく、このコレクションが形成された物語や特徴にも着目したい。ゲルダ・ケプフ夫人は、1888年に祖父が創業したGelita社──現在はゼラチンやコラーゲンの製造メーカー──の経営を継ぎ、1960年から75年まで取締役を務め、その後も80歳になるまで経営に携わっていた。ガラスを集めはじめたのは1960年代から。コレクションにガレの作品があることはもちろんだが、まだ評価が高くなかったドーム兄弟の作品にいち早く注目していたという。コレクションはアール・ヌーヴォーのガラスに絞られていたことを見れば、ケプフ夫人がその様式に魅せられていたことは間違いないが、館内で上映されている映像によれば、器形や図案以上にガラス製造の技術に関心があったようだ。その点を意識してコレクションを見てみると、器形に凝ったものは比較的少ないこと、昆虫や爬虫類を立体的なモチーフにしたグロテスクな作品が少なく、花や植物の意匠が多く見られることに気づく。解説によれば水に関連するモチーフのものが多く集められていたようだ。日本ではあまり知られていないデザイナーの作品が多いことも、技術への関心ゆえであろうか。パナソニック汐留ミュージアムの岩井美恵子学芸員が注目する作品のひとつは、エミール・ガレの《花器(カッコウ、マツヨイグサ)》(1899/1900年頃)。この器に用いられている「マルケトリ」という技法は、あらかじめ文様に切り出したガラス片をボディに象嵌する装飾技法で、ガレが木製家具の象嵌からガラス制作に応用し特許をとったもの。ガレの独創性を示す作品であると同時に、ケプフ夫人がその技術に関心を抱いたであろうことは想像に難くない。展示室はヨーロッパの美術館のようなしつらえ。数点の作品の展示ケースには特別な照明装置が仕込まれており、器を外側からと内側からと交互に照らし、ガラスならではの美しい効果を私たちに見せてくれる。[新川徳彦]
2015/07/24(金)(SYNK)
戦争と学校──戦後70年をむかえて
会期:2015/07/04~2015/10/06
京都市学校歴史博物館[京都府]
第二次世界大戦の終結から70年を迎えた今年、戦争と人々の関わりをテーマとした展覧会が各地で開かれている。京都市学校歴史博物館「戦争と学校」展は、戦中戦後の学校教育と子どもたちの生活に焦点を当てた展示だ。教育勅語や奉安殿の写真、軍事教練など、その時代の学校や制度を象徴する知られた資料だけではなく、子どもたちの日常生活にも関わる多様な資料が出品されている。たとえば『あさのま』。京都府では戦前期の夏休みに『あさのま(朝の間)』という独自の課題冊子が子どもたちに配布された。「あさのま」は明治天皇の御歌「あさのまに もの學ばせよ をさな子も ひるはあつさに うみはてぬべし」に由来する。冊子表紙裏に掲載された御歌の下には、次のように学習のこころ構えが記されている。「やりませう すゞしい間につくえによつて。 その日のぶんはきつとその日に。 しせいを正しくして。 字は十分うつくしく。 できるだけ自分の力で」。これだけを見ると現代でも十分に通用する内容に思われるが、中の課題は「東亜の資源」であったり、「あなたの地元の氏神様」であったり、時代を直接に反映している。昭和17年に初等科1年生だった人物が保存していた学校時代の資料も興味深い。絵画は前年の父親の出征風景。習字の課題は「ウチテシ ヤマム」。3年生のときの作文は「兵たいさんへ」。先生による赤字がたくさん入っている。そのほか、父親が帰ってきたら見せるためにと綴りにした図画。その父親は南方で戦死(もしくは病死)している。終戦後、教えられる内容はがらっと変わり、6年生の習字の課題は『世界永遠平和』だ。教育というものの枠組みは大きく変わらないように見える一方で、そこで教えられる内容はいとも容易に変わりうるものなのだ。オーラルヒストリー、ヴィジュアルヒストリーの手法もありうるテーマだとは思うが、資料自体に語らせる展示構成はとても説得力のあるものになっている。[新川徳彦]
2015/07/25(土)(SYNK)