artscapeレビュー
2016年12月15日号のレビュー/プレビュー
小高の鈴木邸/南相馬ワークショップ事前調査・ヒアリング
会期:2016/11/12
[福島県]
南相馬へ日帰り。3.11後、しばらくは道路が封鎖されていたために、いつも仙台から南下して訪れていたが、今回は郡山から6号線を経由し、北上して向かう。途中は自動車による通過はできるけど、止まって、立ち入りすることは禁止のエリアが続く。それゆえ、道路に面した家屋や建物の門にことごとくバリケードが設置されている。立ち止まることが許されない、刺々しい無人の風景がいまも残っている。
南相馬の仮設住宅から帰還する自治会長、小高の鈴木邸は、はりゅうウッドスタジオが設計に関与し、使わなくなった2階の床を外して減築することによって、天井が高い、集会所的に使える空間を生み出した。ここでせんだいメディアテークの清水建人と北野央によるレクチャーを開催し、震災と記憶、アート、そして志賀理江子の展覧会をめぐる議論を行なった。また仮設住宅地の経験や今後の居住についてのヒアリング調査も行なう。東北大五十嵐研で手がけた塔と壁画のある集会所についてのアンケートの予備調査を通じて判明したのは、新しい生活を始める人たちがこれを移設したいとか、部分だけでも欲しいといった反応があるらしく、思っていた以上に仮設住宅地において合理性や機能性からは生まれない意味を獲得していたことだった。
写真:小高の鈴木邸
2016/11/12(土)(五十嵐太郎)
河口龍夫 時間の位置
会期:2016/10/08~2016/11/26
川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]
さいたまトリエンナーレを見に行こうとしたが、電車に乗ったら気が変わって、美術館をハシゴすることに。トリエンナーレはまだ先までやってるし。まず訪れたのは、川口市のアトリアで開かれている「河口龍夫 時間の位置」。河口龍夫といえば、60年代から活動するベテランのなかでもっとも旺盛に発表し続けている現代美術家ではないだろうか。東近をはじめ主要な美術館を総ナメにしているといっても過言ではない河口が、なぜ美術館とも名乗らない川口市のアートギャラリーで個展を開くのかといえば、同じカワグチだからというわけではなく、彼の代表作のひとつ「DARK BOX」シリーズが関係しているらしい。「DARK BOX」とは真っ暗な空間で「闇」を封印した鉄の箱状の作品で、1975年に第1作が発表され、97年から毎年ひとつずつ制作されている。この鉄の箱を鋳造しているのが「キューポラのある町」(キューポラは鋳物の溶解炉)として知られる川口の鋳物屋であり、その新作をアトリアのある並木元町公園の地下に掘られた雨水地下調整池で制作する(つまり地下空間で「闇」を閉じ込める)ことになったのだ。だから新作《DARK BOX 2016》は、箱(鋳物)も中身(闇)も川口オリジナルというわけ。もっともこの箱、巨大な豆腐パックみたいな台形を向かい合わせに重ねた鉄の固まりで、もちろん内部は見えない。もし見ようとして開封したら闇は消えるので、いずれにしても「闇」は見えない(作者本人は「闇が見える」というが)。この《DARK BOX 2016》を中心に、ドローイングや関連資料も併せて展示。
ほかの部屋では、仕切られた箱状のプールにさまざまな時を刻む時計を浮かべた《漂う時間の時間》、虫や小動物の化石をフロッタージュした「石になった昆虫」や「石になった動物」シリーズなど、時間をテーマにした作品を手際よく紹介している。なかでも目を引いたのは「『陸と海』からの時相」シリーズで、これは波打ち際に板を置いて撮影した《陸と海》と題する写真の外側に、鉛筆で風景を描き加えたもの。《陸と海》は1970年に開かれた伝説的な国際展、東京ビエンナーレ70「人間と物質」に出品された初期の代表的作品であり、半世紀近くたって自作に加筆、いや自己批評したともいえる。いったいどういう心境だろう。
2016/11/12(土)(村田真)
ニュー・ヴィジョン・サイタマ 5 迫り出す身体
会期:2016/09/17~2016/11/14
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
埼玉ゆかりの若手アーティスト7人の展示。小左誠一郎と高橋大輔と中園孔二は絵画、小畑多丘は彫刻、鈴木のぞみは写真、二藤建人はインスタレーション、青木真莉子は映像とインスタレーション。小左も高橋も中園もみんないい絵を描いてるけど、高橋と中園は示し合わせたように壁一面が埋まるほど大量の作品を出している。1点1点じっくり見せるより、量とバリエーションで圧倒している。特に高橋は壁だけでなく床にも絵のほか額縁やクレート、絵皿まで並べていて楽しい。ただし、高橋が同館のコレクションから選んだ速水御舟の日本画も隅っこに展示しているが、これは余計じゃないか。鈴木のぞみは解体前の民家を借りて窓ガラスに感光材を塗り、そこから見える風景を7日間もの長時間露光で焼きつけた「窓ガラス写真」を出品。しばしば写真は窓にたとえられるが、これはたとえではなく窓そのものに画像を写すことで、写真の原点に迫っている。二藤はいつも驚かせてくれるが、今回も期待以上に驚かせてもらった。展示室に部屋が丸ごとひとつ天井から吊るされ、ハシゴを伝って部屋に入ると布団が敷いてあり、なんと爆弾が寝ている。こいつと添い寝しろってわけだ。部屋の下は爆発跡のように穴が開いている(ように見せかけるため、わざわざ床を数十センチ上げてある)。いやーどれも楽しめた。出品作家たちはいつになくがんばってるように感じた。これもトリエンナーレ効果かもしれない。
2016/11/12(土)(村田真)
トーマス・ルフ展
会期:2016/08/30~2016/11/13
東京国立近代美術館[東京都]
これまでいろいろ断片的にルフの作品を見てきたが、これだけまとまった展示は初めてである。建築系では、ミースや大阪万博を題材にしたものが興味深い。初期から近年の作品に至るまで、写真や知覚の最前線に切り込んできた現代性が浮かび上がる。なお、いつもと違い、作品の写真撮り放題ということで、あちこちで鑑賞者がパチパチ撮っている会場の様子がまた、写真とは何かを考えさせる契機になっている。
2016/11/13(日)(五十嵐太郎)
NISSAY OPERA 2016 オペラ「後宮からの逃走」
会期:2016/11/11~2016/11/13
日生劇場[東京都]
外部と内部を隔てる門、そして状況に応じて机や椅子が回転・移動し、さまざまに編成を変えたり、コンスタンツェが後姿で立ち尽くすシーンなど、田尾下哲らしい演出を楽しめる。物語は喜劇タッチだが、モーツァルトが原作を変えたラストは、イスラム教徒のセリムが復讐ではなく、赦しを選ぶびっくりするような締めだった。ここは現代社会にも訴えるメッセージ性を読みとることができる。全体的に歌は少し難ありだったが。
2016/11/13(日)(五十嵐太郎)