2019年10月01日号
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artscapeレビュー

2009年02月01日号のレビュー/プレビュー

サンプル「伝記」

会期:2009/01/15~2009/01/25

こまばアゴラ劇場[東京]

サンプルの芝居の根底にあるのはニヒリズムである。話の筋はこう。
浅倉シェルター社長の死後、伝記を出版しようとする浅倉の親族とその編纂を任された会社資料部のスタッフたち、社長の元愛人と息子、出版事業に出資を申し出る女、社長の家の使用人など、社長と伝記をめぐるそれぞれの思惑のズレが対話によって肥大化し、収拾がつかなくなってゆく。よくある「中心の不在」をめぐる物語(?)といってしまえばそれは確かにそうで、父への愛憎(コンプレックス)を基点に、きわめて明瞭な構造が舞台を構成する。この構造は、ちょっとしたハプニング(車椅子の元愛人が失禁したり、金持ちの女が意味不明の挑発を男性スタッフにふっかけたり、突然歌い出したり……)によってわずかに歪む。この歪みが、観客の笑いを引き出し、舞台を推進させる。とはいえ、その歪みに社会の歪みや人の心の歪みを反映させるなんて気持ちは、主宰・松井周にははなからない。人生とは?伝記とは?などと問うのは意味がない。ここで伝記とは、歪ませて遊ぶおもちゃの骨組みをつくる原材料以外ではないのだから。といって歪みの角度が笑いを狙うこともない。構造を歪ませる行為がただの純粋な遊び(であるが故に、この遊びは遊びでさえないのかも)であることをはっきりと告白するために、スタッフたちが突然口紅を塗りあうなど振る舞いの無意味さは次第に激しさを増し、その甚だしさがピークを迎えたあたりで終演した。
この形式主義の高度さが日本の若手演劇のクオリティを証しているのは間違いない。とはいえ、隠しがたいのは、形式が内部で機能すればそれだけ、ぼくの疎外感がエスカレートしたこと。浅倉と同じく観客もここでは死者に近い存在であり、不在としてのみ位置づけられている気がした。
サンプル「伝記」:http://www.komaba-agora.com/line_up/2009_01/sample.html

2009/01/16(金)(木村覚)

吉岡俊直 展

会期:1/15~2/8

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

映像、CG、写真作品が出品された。映像は自宅マンションの一角に巨大な水滴が現われて、遂には雫となって落下するというもの。水滴は「恐怖」のメタファーである。シンプルな作品だが、得体の知れない怖さを見事に表現していた。写真作品は、スイカの皮の部分のみを剥き、真っ赤な果実をむき出しにしたもの。まるで肉塊のような生々しさがあり、内視鏡で初めて自分の臓器を見た時のことを思い出してしまった。

2009/01/17(土)(小吹隆文)

泉洋平 展

会期:1/17~31

studio J[大阪府]

画廊の壁面を取り巻く85頭の競走馬の絵画。それらはエドワード・マイブリッジの有名な連続写真を思わせる。ところがよく見ると、それらは一頭ずつ異なっていた。頭の中で、連続する1頭と静止する85頭が重なり合う。泉の作品はいつもこんな具合だ。視覚や認識の裏をかいて、常識の向こうに広がるもう一つの可能性を示唆する。その行為を控え目に淡々と行なう点も彼の美徳と言えよう。

2009/01/17(土)(小吹隆文)

三瀬夏之介展「冬の夏」

会期:1/15~2/22

佐藤美術館[東京都]

三瀬夏之介の回顧展。初期から近作にいたるまで130点あまりの作品を一堂に集めた展示は圧巻。会場の全体を屏風仕立ての連作でぐるり囲い込んだり、小さな空間を利用してアトリエを再現したり、空間全体がひとつのインスタレーションとなるよう工夫が凝らされている。展示に向いた空間とは決していえないが、壁に掛けられた巨大な絵の上下が天井と床にはみ出しているように、三瀬のあふれんばかりの創作エネルギーがありありと感じられるようになっている。

2009/01/18(日)(福住廉)

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夜と昼/アラン・セシャス

会期:10/31~1/18

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

パリ在住のアーティスト、アラン・セシャスの個展。会場内に敷いたレールの上を3体の擬人化されたネコが移動していく《夢遊病者たち》やエルメスのスカーフ、カレをモチーフにしたネオン作品《カレ海賊》、渦巻状の模様が高速で回転していく《エミール・クーエへのオマージュ》などが発表された。真っ白のネコ人間が目を閉じて両手を突き出しながらさまよう様子は、文字どおり白昼夢を見ているかのようだったが、最後の一匹だけは眼を見開き、しかもコートの下の興奮状態を隠していないせいか、まるで延々と尾行してくる変質者のようで、不安にさせられる。

2009/01/18(日)(福住廉)

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