artscapeレビュー
2009年02月01日号のレビュー/プレビュー
パリで国際デザイン見本市「メゾン・エ・オプジェ」開催(1/23~1/27)
メゾン・エ・オブジェは、1995年より年に2回(1月と9月)パリで開催されるインテリア・デザインの国際見本市である。今年で14年目を迎える。ミラノ・サローネと比べると歴史的には若いデザイン見本市であるが、出展社数は約3,000を数え、フランスだけでなく世界各国から多数の来場者を誇る。規模的にはヨーロッパでも最大規模のデザイン・イベントに成長している。ジェトロもジャパンブースを設置。天童木工など日本の企業も参加している。
昨秋来、パリでは日本のデザインに関する展示が相次いで開催されており(「民芸の精神」展[ケ・ブランリー美術館、2008年9月30日~2009年1月11日]、「WA:現代日本のデザインと調和の精神」展[パリ日本文化会館、2008年10月22日~2009年1月31日]、「感性 kansei-Japan Design Exhibition-」[国立装飾美術館、2008年12月12日~21日]、「Japan Car」展[科学産業博物館、パリ:2008年11月1日~9日]など)、日本のデザインに対する関心は、例年に増して高まっていると思われる。「WA:現代日本のデザインと調和の精神」は、「メゾン・エ・オプジェ」会期中も開催中[1/31まで]なので、世界各国から訪れるデザイン関係者とデザインファンが、日本デザインの現在の活況を知るいいチャンスになるだろう。
画像:「メゾン・エ・オブジェ 2009年」公式パンフレット[筆者撮影]
2009/01/22
バウハウス90周年〈1〉──バウハウス・デッサウ展
会期:2009年1月25日~2009年3月29日
宇都宮美術館[栃木]
バウハウス・デッサウ展は、昨年4月に東京藝術大学大学美術館で立ち上がり、二カ所の巡回を経て、いよいよ1月24日より宇都宮美術館で開催される。デッサウのバウハウス校舎は世界遺産に指定されるなどモダンデザインの歴史的記念碑としての地歩を一層高めている観がある。その意味では、バウハウス・デッサウのコレクションを中心にしたこの展覧会は、モダンデザインのルーツに触れる好機であることに疑問の余地はない。
他方、90年経ったからこそ、バウハウスを絶賛する態度から一歩距離を引いてみる見方があってもいいのではないかと思う。レジェンドは、ある意味、単純であるがゆえに訴求力を持ちうるのかもしれないが、「第一次世界大戦敗戦直後の瓦礫から立ち上がり、モダンデザインの基礎を築いたものの、1933年にナチスに閉鎖されました」という一連のクリシェからそろそろ脱してもいい時期ではないかと思う。実際、閉校後、バウハウスの関係者のなかには第三帝国下で有用なデザイナーとして活躍した者も少なくない。第三帝国の文化との断続と連続、あるいは、バウハウスに先立つ、アーツ&クラフツ運動との断絶面と連続面を検証していくという新たな視点での「バウハウス」の再考や再解釈ができる時点に来ているのではないか(すでに紹介したが、東京都美術館で同日にオープンする「生活と芸術──アーツ&クラフツ展 ウィリアム・モリスから民芸まで」と併せて見るという見方をぜひお勧めしたい。特に、同展で展示されているペーター・ベーレンスのヤカンをじっと見ていただきたい。そこにモダンデザインの連続と断絶が見えてくる)。
事象を単純化して礼拝の対象として見せることも展覧会の技であるが、クリシェ化したヴィジョンを解体して新たな光を当てることができるのも展覧会の醍醐味である。そういう切り取り方は、たとえば、現代のアート&メディア&テクノロジーの最先端の状況と重ね合わせて、バウハウスの理念の到達点と限界点を検証することによっても可能だろう……。バウハウス100年となる2019年、必ずやバウハウスの展覧会が開催されるだろうが、そのときこそバウハウスを新たな光の下に照らし出すような展覧会が現われんことを祈ってやまない。
なお、今年はバウハウス90周年の記念すべき年であるので、このコーナーで関連するイベントや展覧会などを取り上げていきたい。今回はその第一回目にしたいと思う。
画像:バウハウス・デッサウ展(宇都宮美術館)の展覧会カタログ[筆者撮影]
2009/01/23
島袋道浩「美術の星の人へ」
会期:2008/12/12~2009/03/15
ワタリウム美術館[東京]
「やるつもりのなかったことをやってみる」の文字が大きく白い壁に描かれてあって、それは、観客への作品案内のようで実は指令(インストラクション)。NYのビルボードに「WAR IS OVER」と掲げたオノ・ヨーコに似ているなと思う。ただし、島袋が観客に告げるのは、イマジンというより実感してみよ。例えば、上記した文字の下にはゴルフのできる囲いがあって、実際にスイングしてみよ、というのだ。美術館にないはずのゴルフ場で、思いもかけずスイングする経験。島袋は、観客に実行を誘い、自分もそれを実践する。イタリアでタコ壺を制作して現地の海で漁に挑み、また別の浜辺で自分を描いた等身大の凧を上空に揚げてみる。ほかにも、床に置いた箱がないはずの口でしゃべり出すとか、非常階段をめぐると象の背中を写した写真が見えて、さらに上ると不意に青山で象の鳴き声が響くとかがあった。本展覧会のために制作された写真集『象のいる星』は300円、普段は路上で『ビッグイシュー』を売るおじさんが美術館の出口で販売していた。話すはずのないおじさんと話し、買うはずのない『ビッグイシュー』も購入。今日の作家の大事な仕事は、こうしたちょっとした入れ替えの仕掛けをつくることにある?なんて思いながらぼくは帰りの電車で、象のいない青山の風景写真に象の存在を実感しようと写真集を繰った。
島袋道浩「美術の星の人へ」:http://www.watarium.co.jp/museumcontents.html
2009/01/25(日)(木村覚)
川染喜弘/ツポールヌa.k.a. hot trochee「(音がバンド名)presents」
会期:2009/01/26
円盤[東京]
magical, TVで不完全燃焼だった小林亮平を再度見たくて、川染喜弘と組む(音がバンド名)の自主企画へ。それぞれのソロ。観客数は10人弱と少ないが、きわめて衝撃的な上演だった。
ツポールヌa.k.a. hot troche(小林亮平)は、終始、背中を向け、しゃがんだままマイク越しに「あれ?」とか言っている。もうはじまっている? 1時間の上演の9割は、機材のコンセントを探したり、接触の具合を直したりに費やされる。しっかり準備しておけよ!と非難するのはお門違い。なぜなら彼(ら)のパフォーマンスの真髄は準備の過程に、あるいは作品と作品の間にあるのだから。爆笑のピークは、接触の悪いリズムマシーンが直るとすかさず阪神の小さなプラスティックバットでぶっ叩きつづけ、また音が止まると「あれ?」と直す瞬間。因果の自家中毒が生む奇怪な時間。狂気の沙汰はつづき、最後は、触れると50音の鳴る幼児用のボードを取り出し、観客と一緒にこっくりさん。失策のみの演奏が不思議と退屈でないのは「準備」がひとつのフレームになって機能しているからこそに違いない。そうしたフレームへの意識が明らかである故に、小林(や川染)の行為はアートとして評価すべきものとなっていた。
続いて登場した川染は、高いテンションで観客を煽り、このフレームを巧みに観客に語り出す。川染め曰く「これから即興のオペラをはじめる」と。ただし、「思い浮かんだ瞬間、ストーリーばかりか漏らした単語の1音までずたずたにカット&ペースト+エフェクトしていく」と。そこで「村」をカットし代わりに床に落ちていた「ビニール」をペースト。「銃声」をカットし「ヘリコプター音」をペースト。これをひとり全身で実行。音楽的なアイディアが演劇をラディカルに変容させる。とはいえ、きれいにまとまるどころか延々とリハーサルとも上演ともつかぬ時間が止まらない。途中で、発泡酒を煽ると「カンフー少女」が暴れ出すという突拍子のないレイヤーが差し込まれた。とっさに浮かぶ思いつきとそれをとっさに加工・解体する、その連続。
これは、完成を拒んで、行為する身体とはいったいなんなのかを問い、問うて遊ぶゲームである。川染と小林はぼくの知る限り、いまもっとも根本的かつキュリアスかつキュートなパフォーマーだ。
2009/01/26(月)(木村覚)
「『WA:現代日本のデザインと 調和の精神』パリ展公開報告会──日本のデザイン文化を海外で紹介すること」開催
会期:2009/02/25
国際交流基金[東京]
「メゾン・エ・オブジェ」の紹介のなかでも触れたが、2008年10月22日から2009年1月31日までパリ日本文化会館で、現代のプロダクトデザインをテーマにした「WA:現代日本のデザインと調和の精神」展が開催された。この展覧会は今後国際巡回する予定であるが、パリ展を終えて国内の関係者、一般の方々に向けて報告会が開かれる。展覧会の内容を映像を交えて報告した後、展覧会のキュレーション、グラフィックデザイン、展示デザイン、照明デザインそれぞれに関わったメンバーがそれぞれの視点でディスカッションを行なう(メンバーの詳細はhttp://www.jpf.go.jp/j/culture/new/0809/09-02.htmlに掲載されている)。
参加希望者は、2月23日(月)までに下記メールもしくは、FAXにて国際交流基金のデザイン展報告会係までご連絡をということである。
国際交流基金・デザイン展報告会係=E-mail:Noriko_Morimura@jpf.go.jp
/Fax:03-5369-6038[森村]
●パリ展公開報告会──日本のデザイン文化を海外で紹介すること
日時=2月25日(水)、14:30~16:30
会場=国際交流基金
JFICホール「さくら」 東京都新宿区四谷4-4-1
*参加無料、定員100名、日本語
*定員になり次第締切
また、本展展示デザイナー「TONERICO」がNHK「トップランナー」に出演する[放送日=2月23日(月)、24:10~]。番組のなかで本展の展示デザインも紹介される。
「WA:現代日本のデザインと調和 の精神」展:http://www.jpf.go.jp/j/culture/new/0809/09-02.html
写真:イベントチラシ[デザイン=松下デザイン室]
2009/01/30