artscapeレビュー

2009年02月15日号のレビュー/プレビュー

加藤チャコ「スローアートとオーストラリア」

会期:1/31

プロジェクトスペースKANDADA[東京都]

メルボルン在住のアーティスト、チャコさんの講演会。オーストラリアのエコロジカルでエフェメラルな「スローアート」を紹介。彼らは売るために作品をつくるのではないし、展示期間が過ぎれば作品はあとに残らないから、どうやって食っていくかが問題となる。これはある意味でプロのアーティストの否定であり、極論すればモダニズムへの挑戦である。そこまでいってないけどね。

2009/01/31(土)(村田真)

松延総司「Nissed」

会期:1/27~2/1

立体ギャラリー射手座[京都府]

どんな意味なのだろうかと気になっていたが、展覧会タイトルはDessin(デッサン)を逆表記したものなのだそう。3次元のものをできるだけリアルに2次元に表現するデッサンとは逆に、3次元のものを用いて、2次元的な視覚効果をもたらす表現を試みるというので楽しみにしていた。筆を洗う黄色いプラスチック製の水入れやトイレットペーパー、ビールケースなど、さまざまな物が、マンガの輪郭線のように黒いテーブで縁取られて展示されていた。その狙いどおり2次元的な視覚効果を感じられたかというと、会場のライティングの加減があまく、中途半端な影をつくっていたせいか微妙だ。とはいえ、使用された量産品のピックアップも面白く、興味深い試みだと思った。これからも追究してぜひ極めて欲しいところ。また見たい。

2009/01/31(土)(酒井千穂)

京都精華大学芸術学部卒業・大学院修了制作展

会期:1/28~2/1

京都市美術館[京都府]

卒業制作展の季節で京都市美術館も賑わっていて、いつもとは少し違う雰囲気に包まれている。卒業制作展を見るのは好きだが、その質はどの大学を見ても毎年少しずつ下がっていると感じるのは気のせいだろうか。今年の精華大学の制作展で力が入っていると感じたのはほとんどがデザイン科の学生の作品だった。なかでもプロダクトデザイン学科の前田直希の作品、幼稚園児の災害時避難用スーツはコンセプトもデザインも秀逸で、すぐにでも商品化できそう。クマ(熊)をイメージした防災ジャケットのフードには、暗いところでも存在が確認できる蛍光シートのついた「耳」がついていて、集団行動がとりやすくなっている。かわいらしいヴィジュアルイメージだが、丁寧な工夫と努力がうかがえるデザイン。災害時の想像は誰にとっても楽しいものではないし、楽しむものでもないだろうが、防災具類が機能的でかつ楽しいという要素をもっているということは、いろいろな場面で影響してくるはずだ。それを充分に踏まえている(と思う)点もうかがえて、会場でも際立っていた。

2009/01/31(土)(酒井千穂)

松本央 展「PROTOZOA」

会期:1/27~2/1

アートスペース虹[京都府]

京都市美術館の卒業制作展の会場にも大作が二点展示されていたが、こちらは自宅で撮影した自身の写真をもとに数カ月をかけて描いたという自画像。松本はこれまでずっと自画像を描いている。モチーフを他人に変えて描いてみたこともあったが、なんだか描いているとモデルへの「遠慮」が入って納得できるものがなかなかできなかったからだという。以前の作品ファイルを見せてもらった。面白いほどにテクニックの上達過程がうかがえる。自画像はよくあるし、たしかに巧いけれどそれだけではない魅力を放っている。技術にも自画像にも若い時代の苦悩や成長が瑞々しく表われているせいだろうか。

2009/01/31(土)(酒井千穂)

青森県立美術館監修『小島一郎写真集成』

発行所:インスクリプト

発行日:2009年1月10日

真冬の北国から届いた郵便物。それがこの『小島一郎写真集成』だった。青森県立美術館で開催されている「小島一郎──北を撮る」(2009年1月10日~3月8日)のカタログとして刊行されたものだが、さすがにこの寒い時期に遠い青森まで展示を観に行くのは辛い。申しわけないが、写真集として紹介させていただく。
小島一郎は1924年に青森で生まれ、1964年に39歳で死去した写真家である。1961年に「下北の荒海」でカメラ芸術新人賞を受賞、作家の石坂洋次郎、詩人の高木恭造と共著で『津軽 詩・文・写真集』(新潮社、1963)を刊行するなど、生前は将来を嘱望された若手写真家だった。だが、彼の代表作をほとんどおさめた、決定版ともいえるこの写真集を見ると、この北の作家の人生が、いくつかの運命の綾に彩られた、どちらかといえば悲劇性の強いものであったことがよくわかる。
詳しくは、同書に掲載された同館学芸員、高橋しげみによる力のこもった論文、「北を撮る──小島一郎論」を読んでいただきたいのだが、彼を東京の写真の世界に招き寄せた名取洋之助がすぐに世を去ったり、慣れない都会の生活で体を壊したり、起死回生をめざした北海道撮影行が失敗に終わったり、特にその晩年は不運が重なったということがあるようだ。とはいえ、彼の「津軽」や「凍ばれる」シリーズの、骨太の造形力と、寒々しい北の大地の手触りを鋭敏に感じとり、ハイコントラストの印画に置き換えていく皮膚感覚は、誰にもまねができないものだろう。あらためて、小島一郎の魅力的な写真世界を若い世代にも語り継ぐという意味で、今回の出版企画の意義は大きい。

2009/01/31(土)(飯沢耕太郎)

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