artscapeレビュー
2009年02月15日号のレビュー/プレビュー
レム・コールハース+ハンス・ウルリッヒ・オブリスト『コールハースは語る』
翻訳者:瀧口範子
発行所:筑摩書房
発行日:2008年10月
ハンス・ウルリッヒ・オブリストによるレム・コールハースへのインタビュー集の翻訳。本書のインタビューは、2003年から2006年頃までに、世界中で二人が顔を合わせたときに行なわれたものをつなぎあわせて出来たものだという。中国、ヨーロッパ、都市、ソウル、ベルリン、ポルトといった2000年以降のコールハースの関心とプロジェクトについて話されているが、懇意の二人によるものであり、えらく核心に至るスピードが速い。特に面白かったフレーズを4つあげておく。政治と文化、アメリカとヨーロッパとアジア、建築と都市、そして建築家に関してそれぞれ。
1──政治こそ文化なのです。
文化が市場経済の一部になってしまっていて(公共アートに対しても反吐を吐いていた)、そこに食い尽くされていないのは政治だけだと喝破している。政治こそが、複雑なパワーバランスをどう動かしていくかというもっともダイナミックで緊張感をはらむ領域だといえるのだろう。なおかつ、彼はそれを建築的に考えている。
2──[ベルリンの]壁はヨーロッパとアジアを隔てていて、それによってヨーロッパとアメリカを合体させていた。
壁がなくなってから、急速にヨーロッパがアジアへと距離を縮めていることに触れ。AAスクールの学生時代に、ベルリンの壁を建築だと見なして調査したコールハースにとってみれば、建築によってヨーロッパがその位置を移動させられているという感覚があるのかもしれない。
3──建築と都市が常にひとつながりで語られることには、非常に驚きます。
建築という制御力が失敗すると、アーバニズムとなる。この話の脈絡とコンテクストがよくは読み取れなかったが、建築を破壊的なものではなく、制御力をもったものと捉えていたのが印象的。ピーター・アイゼンマンは、破壊的であるが、だからこそ建築的ではないという。アーバニズムは、そうすると破壊も建築的統御もない。建築の死がアーバニズムということになるだろう。この言説によって、コールハースにおける建築とは何かという定義が、かなりはっきりすると思う。
4──建築家というのは、一時に二〇ほどの異なった問題を集中して考えているものです。基本的にそれらの間に関係性がないということが、ランダムかつシステマティックに交差点を見つけることを強要するのです。
関係性を見つけるのではなく、関係性が否応なくつくられる。まさに圧縮された時間に生きているコールハースだからこそ言える言葉。僕もまさにそうありたい。
2009/02/08(日)(松田達)