artscapeレビュー

2009年02月15日号のレビュー/プレビュー

さて、大山崎~山口晃展~

会期:12/11~3/8

アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]

作品を見るとまずその画力に釘付けになってしまうのだけれど、新作の《大山崎交通乃圖(ず)》、初公開の《邸内見立 洛中洛外圖(ず)》、明智光秀を題材にした《最後の晩餐》など、今展ならではの作品群は見応えがあり、細部の描写も面白い。架空の地図に描かれた大山崎町の風景も、現実に存在しているような気がしてきてワクワクした。千利休作の茶室待庵があったり、山崎の合戦の地として知られる大山崎だが、丁寧な取材のもと制作されているのも展示から伝わってくる。大山崎町訪問時のエピソードを綴った日記マンガは制作裏話としての魅力もあり、読み進めていくうちにニヤニヤしてしまった。モネの《睡蓮》を展示した新館は展示が難しい空間と思われ、どんな作品が並ぶのか楽しみにしていたが、壁のシミやヒビが風景や動物に見立てられ、ライトでフレーミングされていた。そうきたか!と少し面食らった。個人的にはおしゃれな人だなあと思うが、この会場は見る人によって好みや感想が大きく分かれそう。

2009/01/27(火)(酒井千穂)

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寺田真由美 展

会期:2009/1/15~2/28

BASE GALLERY[東京都]

寺田真由美は1989年に筑波大学大学院の修士課程を修了後、主に立体作品を発表してきた。ところが2005年に発表された「明るい部屋の中で」のシリーズから、写真を制作の手段として使うようになってきた。モノクロームの画像に大きく引き伸ばされた、無機質だがどこか柔らかな手触りを感じさせる「部屋」の眺めは、よく見ると作り物であることがわかる。現実の空間ではなく、誰のものともつかない架空の「部屋」が設定されることで、作品を見る者は、そのイメージに自分自身の記憶や経験を重ね合わせて愉しむことができるのである。
今回の新作ではニューヨークのセントラルパークで撮影された実際の風景が、窓の外の景色としてはめ込まれている。さらに「部屋」には本や地図、桜のイメージなどが配置され、その住人の存在感がより強く感じられるようになってきている。そのことによって、これまではどちらかというと、内向きに、抽象的に傾きがちだった思考や感情の流れが、外に向けて開かれるようになった。これはかなり大きな変化であり、寺田の作品世界が次にどんなふうに広がっていくかが楽しみになってきた。
僕はもう少しダイナミックに、「部屋」の内と外との交流を図っていってもいいのではないかと考えている。不在の住人たちも、そろそろ帰宅してもいい頃ではないだろうか。

2009/01/29(木)(飯沢耕太郎)

蜷川実花『EROTIC TEACHER YUCA』

発行所:祥伝社

発行日:2008年8月30日

去年購入して本棚に放り込んでいたのだが、あらためて「発掘」して見てみるとかなり面白い写真集だったので紹介しておきたい。ストリート系ファッション雑誌『Zipper』(2005年12月号~2008年9月号)に連載されていた写真コラムをまとめたもので、「セクシーパフォーマンス集団」の「東京キャ☆バニー」のYUCAというモデルが、衣装をとっかえひっかえしてセクシーポーズをとるという相当にお馬鹿な企画である。ガテン系、オタク、年下、王子様、成金、神主、IT社長など、キャラクターや職業に合わせて「こんな男を狙い撃ち」というわけで、どうでもいい内容といえばそれまでなのだが、セットアップやスタイリングにまったく手抜きがないところが凄い。
もしかすると蜷川実花の天性の演出力と想像力(というより妄想力)は、こういう面白企画にこそいきいきと発揮されるのではないだろうか。これを見ていると、「エロの脱構築」を旗印に、荒木経惟+末井昭のコンビで1980年代を疾走した『写真時代』のグラビアページを思い出す。ちょっとほめ過ぎかもしれないが、この「スゴエロ」路線は、蜷川の今後の方向性の一つを示しているような気がする。これをさらに発展させて、もっと読者をげんなりさせるような作品を見せてほしいと思う。厚紙に印刷し、角を丸く落として、絵本のようなテイストで見せた装丁のアイディアもなかなかよかった。

2009/01/29(木)(飯沢耕太郎)

『建築ノート』No.6

発行所:誠文堂新光社
発行日:2009年1月

建築をつくる「プロセス」を追うことをコンセプトとした雑誌。かゆいところに手が届くような徹底取材と情報量の新しさ、カラーページの多さが、これまでの建築専門誌と同じようで違う。No.6では「建築の学び方」を特集。注目の研究室が多く紹介されている。個人的には、スイスの建築教育に関する記事が、面白かった。ETH(ドイツ語圏)とアカデミア(イタリア語圏)の関係図などは、ありそうでなかったもの。研究室を選ぼうとする学生にも重宝されそう。監修は、東北芸術工科大学の槻橋修。毎回、既存の情報への勝負の姿勢を貫いている。

2009/01/31(土)(松田達)

『Techniques et Architecture』N.467 Paris métropole 1

発行所:Jean-Michel Place
発行日:2003年8月

2009年1月の本というわけではないが、ジャン=ミッシェル・プラス社(Jean-Michel Place)から出ていた、『ラルシテクチュール・ドージュルドゥイ(L'architecture d'aujourd'hui)』誌と『テクニック・エ・アルシテクチュール(Techniques et architecture)』誌が終刊を迎えていたことを1月に知って驚いたため、挙げておきたい。前者は2007年12月号が、後者は2007年11月号が最終号だった。特に、『ラルシテクチュール・ドージュルドゥイ』誌はアンドレ・ブロックによって1930年に創刊され、近代建築の発展を牽引してきた雑誌のはず。いま、終わってしまうことは、何か象徴的な意味を持つかもしれない。表記の本は、パリの特集号でお気に入りのひとつ。

2009/01/31(土)(松田達)

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