artscapeレビュー
2010年12月01日号のレビュー/プレビュー
泉太郎『こねる』
会期:2010/11/02~2010/11/27
神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]
泉太郎によるおそらく最大規模の個展は、僅かな例外を除いてすべてが新作。というよりも、泉の最近の作品は、会場で撮影し、撮影したものをその場で上映するものが多く、本展でもほぼすべてがその方法で制作・展示されているのである。本展で際立っていたのは、映像が実物大であること。実物大ゆえ、かつてそこで起こったことが同じ縮尺でいまそこに展示される。例えば、巨大な空間に似たような双六のルートがつくられていてそこにルーレットとコマが移動する《靴底の耕作》、木製の小屋(五角形)を細長い空間に沿って数人がかりで転がす《小さなキャミー》、当人の説明を頼りに見えない人物の似顔絵を描く《鳩》。これらのゲームの模様は、実物大の過去(=映像)を現在(実物)に重ねるように展示してあって、現在進行中の出来事のようにすましている。けれども、それらは「幽霊」の見せる「祭りの後」でしかない。壁の小さな裂け目に粘土を押し込めて通過させてゆく《無題》でも、粘土の「にゅるっ」とした独特の振る舞いはとてもリアル、なのにそれは映像であってそこにはない(役目を終えた実物の粘土がそこに置き去りにされてはいるけれど)。このもどかしさは実物大だからこそ。「映像にはサイズはない」という通念を退け、映像の実物大性を見出した泉。それはかくももどかしく切ないものなのか。実物大性が確立されたとなれば、映像の縮小性も拡大性も成立可能だろう。泉のさらなる展開がそこにあると憶測する。
2010/11/27(土)(木村覚)
マームとジプシー『ハロースクール、バイバイ』
会期:2010/11/24~2010/11/28
3年前に旗揚げされたばかりの若い劇団。新作の舞台は高校のバレー部。転校生の入部、先輩と後輩の関係、マネージャーのバレーへの熱い思い、部長の悩みなど、部活をめぐる光景が多面的に微細に、ただし大きな事件なしに描かれる。熱気ある女子たち。それぞれキャラ立ちしている「けいおん!」みたいな同性集団。わいわいしている景色は、ありふれているが微笑ましい。けれども「けいおん!」とは違って共学の学園では、男子2人(新聞部とサッカー部)が登場し、彼女たちの外部を構成する。それに、終幕あたりで「ネバーランド(=高校生活)から外に出るんだね」といったセリフが口にされるように、仲間たちとの「あうんの呼吸」はエンドレスではないという諦念を、登場人物たちは意識してもいる。終わってしまう切なさと空しさ。それが本作のゴール?
対照的に、同じく青春の日々を語る若い劇団ロロは、虚無主義に直面してなお冷めない愛という神秘を何度も懲りもせず描き続ける。両者の最大の違いは、愛する者と愛される者の2者間で展開しうるのが愛であるのに対し、「あうんの呼吸」は集団固有のもので、バレーならば6人が揃わないと成立しないというところにあるのかもしれない。とはいえ、そこにあった幸福な時を追憶するだけではもったいない。何度も同じ光景をリプレイする語りの方法にうながされて、観客は「それはいまはない」というよりも「それはとても貴重な瞬間だった」という思いにかられただろう。平凡な部活の光景に、希有なコミュニケーションの瞬間があった。その経験を彼女たちが卒業後にどう活かすのか、この点がもっとも気になるのだけれど、ともかくもそれを収めようとカメラを抱える写真部のさえない男子がいることは重要で、彼こそこの物語の中心軸だったに違いない。
2010/11/27(土)(木村覚)
神村恵『飛び地』
会期:2010/11/26~2010/11/28
シアターグリーン・BOX IN BOX THEATER[東京都]
美術作家の小林耕平がキャップを被り舞台の脇でスケッチブックを開いては見せる。冒頭。マジックで身体の部位を描いた絵で観客の注意をうながす。「はて?」と思っていると、神村恵ら3人のダンサーが登場し、1人が「二つの乳首に穴が空いていてスースーするので塞ぐ」と言うと残りの2人が動作をはじめた。その動作から察するに、言葉は「指令」で、ダンサーの行為はその「応答」をなしているのだろう。確かに、なんとなく、そうであるらしい動作を確かにしている。だが、どういった応答が狙われているのかあまり判然としない。いかにもな、ストレートな表現は出てこない。指令と応答の関係が緊密に感じられないので、見る者は指令と応答のあいだで宙吊りにさせられる。この宙吊りが冒頭の「はて?」から延々と続く。時折、舞台上の4人が進めている、理解の容易ではない振る舞いが交差してハッとするようなコンポジションが生まれることはあり、そうした瞬間には感動がある。けれども、これを待つには相当の集中力と忍耐力が必要だ。いつも思うのだが、神村作品はソロの場合と出演者が複数の場合とではずいぶんと観客の受ける感触が違う。ソロの場合ならば、神村と観客とで緊密なセッションの関係が容易く生まれるのだが、出演者が複数の場合だと神村と出演者とのあいだで緊密な関係が生じる分、その外で観客はしばしば置いてきぼりをくわされる。今作もそういう印象をもった。残念に思う。
2010/11/27(土)(木村覚)
プレビュー:矢内原美邦『桜の園──いちご新聞から』/HARAJUKU PERFORMANCE+
[東京都]
矢内原美邦がダンス公演と称してチェーホフの『桜の園』を上演(2010年12月10日~12日@池袋あうるすぽっと)。これが今月の大注目公演に間違いなし。最近の矢内原作品は、ひと頃までのコドモな表現からは想像もつかないダークでフェミニンな演出が際立ってきており、そうした独特な魅力がチェーホフの名作に触発されてどう展開するのか、大いに楽しみであります。
あと、今年もHARAJUKU PERFORMANCE+(PLUS)の時期となりました。渋谷慶一郎、Open Reel Ensemble、山川冬樹、Daito Manabeなどおなじみのメンバーとともに、きわめてユニークなチョイスもあって期待したい顔ぶれが揃っています。この二日間は原宿で「音楽漬け」になりそうです。
2010/11/30(火)(木村覚)