2018年10月15日号
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artscapeレビュー

奈良原一高「Japanesque 禅」

2015年06月15日号

会期:2015/05/11~2015/07/04

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

奈良原一高の「JAPANESQUE(ジャパネスク)」は、彼の作品の中でもやや特異なシリーズといえるだろう。1966年に『カメラ毎日』に連載され、1970年に田中一光のデザインによる同名の写真集(毎日新聞社刊)にまとめられたこのシリーズは、「富士」「刀」「能」「禅」「色」「角力」「連」「封」の8章によって構成されていた。日本の伝統文化が被写体であることは、章のタイトルを見ればすぐわかる。だが、単純な「日本回帰」の産物というわけではない。奈良原はこの作品を発表する前の1962~65年に、パリを中心にヨーロッパに滞在していた。つまり「JAPANESQUE 」は、堅固に打ち固められた石造りの建物に代表されるヨーロッパの文化・風土にどっぷりと浸かって帰ってきた彼が、そのフィルターを通して再構築しようとした「日本」イメージの集積だったのだ。写真集『JAPANESQUE』所載のエッセイ「近くて遥かな国への旅」では「ヨーロッパを訪れて、僕ははじめて日本という国に出会ったのである」と書いている。
それは、今回フォト・ギャラリー・インターナショナルで展示された、「JAPANESQUE 」の中でも最も印象的な章の一つである「禅」の写真群(22点)を見てもよくわかる。曹洞宗の大本山である鶴見・総持寺での厳しい修行の様子を捉えた本作でも、ドキュメンタリー的な描写のあり方は、ハイコントラスト画像、超広角レンズ、ソラリゼーション、長時間露光などの特殊技法によっていったん解体され、むしろ無国籍的といえるような時空において、幻影とも現実ともつかない「JAPAN」としてふたたび組み上げられているように見える。文字通り、日本の伝統文化の批評的な再解釈であり、このような仕事は、奈良原以前にも以後にもほとんどおこなわれてこなかったのではないだろうか
「JAPANESQUE 」の視点は、いま見ても決して古びてはいない。それどころか、よりグローバルな無国籍化が進行した現在の社会・文化の状況を踏まえた新たな「JAPANESQUE」も、充分に可能なのではないかと思える。

2015/05/20(水)(飯沢耕太郎)

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