artscapeレビュー

甲斐啓二郎「Opens and Stands Up」

2017年06月15日号

会期:2017/05/23~2017/06/04

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

甲斐啓二郎は、2013年に同じTOTEM POLE PHOTO GALLERYで、「Shrove Tuesday」展を開催した。イギリスの村で350年余り続いている、村中の男たちがボールを蹴り合う「Shrovetide Football」という行事を取材した作品である。今回展示された「Opens and Stands Up」はそれとよく似ているが、東ヨーロッパのジョージア(グルジア)の村に伝わる、やはりひとつのボールを巡って男たちが体を張って争う「Lelo」という行事を取り上げている。村を流れる川の両岸でチーム分けをすることや、ほとんどルールがなく、教会以外は村中のあらゆる場所が舞台になることも共通している。「Shrovetide Football」がサッカーの原型だとすると、こちらはラグビーの起源となる行事ということだ。
「Shrovetide Football」もそうだったのだが、甲斐はあえて中心的な被写体であるボールを画面に写しこまないようにしている。そのことによって、純粋な体と体のぶつかり合い、感情の高ぶり、男たちの悲痛な表情が強調される。2014年に、やはりTOTEM POLE PHOTO GALLERYで展示され、2016年に「写真の会賞」を受賞した「手負いの熊」展(長野県野沢温泉村の道祖神祭「火付け」を撮影)もそうだったのだが、甲斐が目指している、民俗行事を撮影することで、スポーツや戦争の起源となる状況を浮かび上がらせるという意図がよく実現された展示だった。
こうなると、これまで撮影してきたいくつかの行事を、横糸で繋いでいくような構造を持つ、よりスケールの大きな作品を見たくなってくる。今回は13点と作品数がやや少なかったが、もう少し大きな会場での展示、ボリュームのある写真集の企画をぜひ実現してもらいたいものだ。

2017/05/24(水)(飯沢耕太郎)

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