2018年06月15日号
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artscapeレビュー

原芳市「エロスの刻印」

2017年06月15日号

会期:2017/05/10~2017/06/17

POETIC SCAPE[東京都]

写真作品は、時としてとても数奇な運命を辿ることがある。原芳市は1993年頃に、東京と大阪の個展で発表した作品をまとめて、写真集を刊行しようとしていた。ところが、撮影済みのポジフィルムを預けていた出版社が突然倒産して、それらのフィルムも行方不明になってしまった。ところが、それから20年以上が過ぎた2015年に、箱に入れたまましまっていた展示用の「チバクロームクリスタルプリント」が出てきた。今回の個展は、それらのプリントを最新の複写システムでデジタル化して再プリントしたものだ。あわせて、そのデジタルデータを使用して、同名の写真集もあらためて出版されることになった(でる社刊、ブックデザイン=鈴木一誌+下田麻亜也)。
こうして姿をあらわした「エロスの刻印」は、モノクロームプリントが多いこの時期の原の写真シリーズとしては珍しく、6×6判のカラーで撮影されている。原の写真はエロスとタナトス、日常と非日常とを絶妙に配分してブレンドするところに特徴があるのだが、このシリーズはタイトル通りエロスへの傾きが半端ではない。当時の彼は「地方の小さな温泉宿や、近郊の小都市で戯れ遊んだ女たちとの、一夜限りの逢瀬」に溺れていたのだという。写真にも、バブル経済の名残が色濃く残るそんな時代の空気感が刻みつけられているように感じる。女たちだけでなく、花や小動物や風景にも、息苦しいほどに濃密なエロティシズムが漂っているのだ。近年の原の仕事は、やや枯淡の境地という趣があるが、こういう写真が発掘されると、続編も期待できそうな気がしてくる。

2017/05/10(水)(飯沢耕太郎)

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