2017年11月15日号
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artscapeレビュー

奥能登国際芸術祭2017 その3

2017年11月01日号

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会期:2017/09/03~2017/10/22

珠洲市全域[石川県]

芸術祭の魅力は現代美術の鑑賞をとおして開催地の風土や伝統、習慣を体験できる点にある。それは都市型の国際展では到底望めない、地域に根づいた芸術祭ならではの大きなアドバンテージである。
坂巻正美は上黒丸北山の集落に、この芸術祭が開催される前から通い詰め(奥能登・上黒丸アートプロジェクト)、今回は休耕田に大きな櫓を立て、大漁旗をなびかせた立体作品と、小屋の中で木造船や鯨の頭蓋骨などで構成したインスタレーションを発表した。あわせてこの日、展示会場にほど近い仲谷内邸で「鯨談義」を催した。
「鯨談義」とは、この地域で伝統的な生業としてあった鯨漁についての車座談義で、その経験者はもちろん地域の方々や芸術祭の来場者が交流する場である。一般のご家庭に入ると、土間では集落の方々が炭火で獣の肉を焼いており、居間では地酒とご馳走がふるまわれている。坂巻がプロジェクターで鯨漁の資料などを見せる傍ら、集落のご婦人たちが次から次へと暖かい料理を運んでくるので、話に耳を傾けながらも、神経はもっぱら舌の味覚に集中せざるをえない。鹿や猪の肉、鯨肉、そしてそれらの味を引き締める地産の塩。文字どおり海の幸と山の幸を存分に堪能したのである。
地域の風土や歴史、民俗文化と現代美術。そもそも後者が都市文化の賜物であることを思えば、前者と後者の相性は決してよくないはずだ。しかし、芸術祭という形式において両者は奇妙な共鳴を生んでいるように思われる。現代美術は民俗文化を主題とした作品を制作するばかりか、鑑賞者をそれらに導くための道しるべになっているからだ。芸術祭がなければ「鯨談義」に同席することはなかったはずだし、そもそも奥能登の風土を知ることすらなかっただろう。現代美術は芸術祭を経由することで民俗文化に接近しつつあるのではないか。

2017/10/22(日)(福住廉)

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