artscapeレビュー
魅惑の日本の客船ポスター
2012年12月01日号
会期:2012/10/06~2012/11/25
横浜みなと博物館[神奈川県]
明治時代後期から現代まで、海運会社が集客・集荷のための宣伝のためにつくってきたポスターの変遷をたどる展覧会。300点近いポスターを、時代、社会環境、船の役割の変遷を中心に6つのパートに分けて紹介している。第1は「引札・汽船号からポスターへ」。明治時代には商店・商品の宣伝に用いられた引札と同じ手法を海運業者が利用していたが、遠洋航路の発展とともにそれがポスターに代わる。デザインには美人画が多く用いられていたのは、同時期の百貨店やお酒のポスターに類似する広告の手法である。第2は「美人画ポスターから船のポスターへ」。第一次世界大戦による船舶需要の拡大は日本の海運会社に繁栄をもたらし、大阪商船などは勢力を誇示するような迫力のあるポスターをつくる。また、美人画に代わって船そのものがデザインの主題になっていった。第3は「客船就航告知と船の旅」。戦間期には船の画像にとどまらず、観光地や旅の楽しみをイメージしたポスターなどがつくられて、人々を船の旅に誘った。里見宗次によるポスター(日本郵船、1936)や、ゲオルギー・ヘミング(ピアニストのフジコ・ヘミングの父)のポスター(日本郵船、1932)などには、フランスのポスター画家カッサンドルの影響も見て取れる。第4は「華やかなポスターと戦争」。台湾や満州などへの航路が充実し、新造船の就航がアナウンスされる。デザインには画家やデザイナーも活躍。3つの新造船を三人姉妹に例えた小磯良平のポスター(日本郵船、1940年)もすばらしい。しかし、1942年以降客船は接収され、軍艦や輸送船となって戦闘に参加。大半が失われてしまった。第5は「減少する客船ポスター」。敗戦によって客船が失なわれたが、南米移民の増加は新たな天地での生活をイメージしたポスターをもたらした。しかし、移動の主役が航空機に代わるとともに、客船ポスターも減少する。第6は「ポスターはクルーズへ誘う」。移動のための手段から、レジャーを楽しむクルーズ船の時代になった現在、ポスターのデザインも青い海に浮かぶ白く豪華なホテルというイメージが多用されていることが示される。たんに懐古趣味のポスター展覧会ではない。日本の海運業発展の歴史ばかりではなく、印刷史、広告史、同時代の社会状況までをも視野に入れた、充実したポスター史の展覧会であった。[新川徳彦]
2012/11/21(水)(SYNK)