artscapeレビュー
沼津の近現代建築
2022年06月15日号
[静岡県]
静岡県の沼津市を訪れた。ここはアニメ『ラブライブ! サンシャイン!!』の聖地でもあり、街のあちこちでキャラクターに出会うが、想像していた以上に数多くの近現代建築を見ることができた。まず丹下健三の《図書印刷沼津工場》は、1954年に竣工したモダニズムである。ファサードは車道路沿いに凄まじく細長いプロポーションをもち、造形が鋭い。正面が壁で埋められて、透明な構造が、やや見えにくくなったものの、現役で活躍している。その後、長坂常によるリノベーションで人気店の《cafe/day》(2015)で、おいしいパンケーキを食べたが、こちらは丹下の時代とは違う、2010年代のカジュアルな感性を体現していた。すぐ近くには、槇文彦が設計した白い《加藤学園暁秀初等学校》(1972)、長谷川逸子の黄色のアクセントが印象的な《沼津中央高校》(2002)、久米設計の今風のルーバーを並べた《ぬまず健康福祉プラザ》(2007)などもある。また沼津駅の周辺には、やはり長谷川による巨大なコンベンションセンター《ふじのくに千本木フォーラム》(2013)は、ライトコンストラクションと木をハイブリッドした建築がたつ。これは屋上の庭園から、富士山がよく見える。
思わぬ伏兵として良かったのが、増沢洵の《沼津市民文化センター》(1982)だった。打ち込みタイルの時代になった前川國男に通じるデザインで、決してラディカルではないし、現代風でもないが、内部空間とその展開がとてもていねいに作られており、もっと再評価されるべき作品だろう。40年過ぎても色あせない造形だった。逆にキレキレなのが、菊竹清訓の《沼津市芹沢光治良記念館》(1979)だった。荒々しいコンクリートの塊が集合した要塞のような建築である。大きな施設ではないが、教会を意識したらしく、異様な存在感を放つ。沖種郎による《きうちファッションカレッジ》(1961)も力強い建築だった。もう使われていないが、解体はされていなかったので、奥の渋いモダン建築とあわせて、60年前の名建築にうまい活用法が見つかるといいのだが。そして歩道上に建物が張りだす、池辺陽らの《沼津市本通防火帯建築》(西側1953、東側1954)、すなわちアーケード商店街も興味深い。都市スケールで展開する1950年代のモダニズムの心意気を感じる。
2022/05/05(木)(五十嵐太郎)