artscapeレビュー

田凱「モニタリング」

2022年06月15日号

会期:2022/05/10~2022/05/22

TOTEM POLE PHOTO GALLERY[東京都]

中国出身で、2018年の第19回写真「1_WALL」でグランプリを受賞した田凱は、その後もコンスタントに個展を開催し続けている。その度ごとに、異なるテーマ、視点で作品を発表しており、写真家としての懐の深さを感じる。

今回は、監視カメラという現代的なテーマを取り上げた。田凱の認識によれば、ミシェル・フーコーが『監獄の誕生』で言及したパノプティコン(全展望監視システム)に代表される「規律社会」は既に解体してしまった。それに代わって多視点的な「管理社会/監視社会」のシステムが強化されつつある。街角に設置されている監視カメラは、そのシンボルといえるだろう。今回の展示では、実際に監視カメラをクローズアップで、あるいは距離を置いて捉えた写真群に加えて、部屋の中を滑らかに移動するカメラ(明らかに監視カメラの動きを意識している)で撮影した画像を、小石をちりばめたスクリーンに投影するという映像インスタレーションも出品していた。

狙いはよくわかるし、日本よりさらに監視システムが大きな役割を果たしている中国出身の田にとっては、切実なテーマであることが伝わってくる。とはいえ、全体的にはまだスケッチの段階であることは否めない。より鋭角的、批評的に「管理社会/監視社会」を浮かび上がらせていく仕掛けを、多元的に構築する必要があるだろう。このシリーズは、まだ完結し切れていないところに、逆に可能性を感じる。

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