2022年07月01日号
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artscapeレビュー

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画─セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策

2022年06月15日号

会期:2022/04/29~2022/07/10

アーティゾン美術館[東京都]

とてもよく練りあげられた、充実した展示だった。柴田敏雄と鈴木理策は、いうまでもなく1980年代から風景写真の分野でめざましい成果をあげてきた写真家たちである。その二人の写真作品を、アーティゾン美術館所蔵の絵画・彫刻作品と並置するという企画は、アイデアとしては素晴らしい。だが、写真と絵画・彫刻とでは、作品制作と提示のあり方が根本的に違っている。実際に展示を見る前は、単なる付け合わせ、見た目だけの一致に終わるのではないかという危惧も感じていた。幸いなことに、その予想はまったく外れてしまった。そこには、柴田、鈴木の写真とアーティゾン美術館所蔵の絵画・彫刻作品が互いに共鳴し、観客のイマジネーションを大きく広げることができるような、新たな空間が創出されていたのだ。

それはおそらく二人の写真家が、既にその活動のスタートの時点で、絵画や彫刻の創作原理を写真の撮影やプリントに組み込んでいく回路をもっていたからだろう。柴田は東京藝術大学美術学部で油画を学んでいるし、鈴木も高校時代には美術部に属して絵を描き、セザンヌに傾倒していた。写真家として活動し始めてからも、折に触れて絵画・彫刻作品を参照し、自らの写真シリーズのなかにそのエッセンスを取り込んでいる。といっても、絵画・彫刻作品の「描き方」をそのまま模倣しているわけではない。写真特有の視覚の働かせ方のなかに編み込むように、絵画や彫刻のそれをつなぎ合わせている。しかもその接続の仕方は柴田と鈴木ではかなり違ったものだ。どちらかといえば、色やフォルムを平面的なパターンとして取り入れていく柴田と比較すると、鈴木は奥行きやアトモスフェア(空気感)に鋭敏に反応し、ピントが合った部分とボケた部分を同時に画面に取り込む、デフィレンシャル・フォーカシングを多用している。両者の多彩で実験的な取り組みが、モネ、セザンヌ、クールベ、ボナール、カンディンスキー、ジャコメッテイ、藤島武二、雪舟らの作品と見事に溶け合っていた。

異彩を放っていたのは、鈴木理策の「Mirror Portrait」(2016-2017)である。ハーフミラーの向こう側のモデルを、鏡の周りにつけられた照明で撮影したポートレートのシリーズだが、モデルが写真家の姿を見ることができないので、思いがけない内省的な身振り、表情で写り込むことになる。鈴木の人物写真はきわめて珍しいが、この分野での可能性を感じさせる興味深い仕事だった。このシリーズは、さらに展開していってほしい。

(編集部註:2022年6月20日に作品説明部分を一部訂正)

2022/06/02(木)(飯沢耕太郎)

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