artscapeレビュー
倉田精二「都市の造景 ENCORE ACTION 21 around MEX」
2009年03月15日号
会期:2009/01/23~2009/02/28
1970年代から都市の路上を疾走し、惚けたような表情のままふらふら漂っている住人たちの姿を、鮮烈な悪意を込めて写しとってきた倉田精二。彼は2000年代に入ると、首都高速道路建設現場を大判カメラで撮影しはじめた。今回は2008年4月、エプサイトでのカラー作品の展示に続いて、モノクロームの連作を発表している。
倉田がなぜ道路建設現場にこだわり続けているのか、もう一つ釈然としない。あの緊張感あふれる路上のスナップを知る僕らには、人の姿が消えてしまった風景にはどうしても馴染めないからだ。だが倉田がある「断念」の思いを抱え込みつつ、このシリーズに向き合っていることは間違いないだろう。展示に寄せた「ご案内」の文章で、彼はこんなふうに記している。
「タイトルにある『造景』は、フランスの文学と社会学者が東京経験と近代以降に世界各地で肥大化する大都市化を眺めた際の命名を模倣して失敬した。この造語が目指すべきモデルがどこにも無い事態は、技術史ばかりか文明の転回期にふさわしい。[中略]残る問いは、いかに精密に模倣して自己自身とレンズの向うの対象を同時一体化して止揚せしめ、なおもvisionを望見し得るかであろう。」
「技術史ばかりか文明の転回点」にもっともふさわしい眺めが、道路建設現場ということなのだろうか。たしかに、そのガラクタを寄せ集めたような光景と、印画紙をざっくり切ってピンナップしたチープな展示は、しっくりと溶け合って面白い効果をあげていた。
彼の「vision」がどう展開していくのか、もう少し見てみたいと思う。
2009/02/04(水)(飯沢耕太郎)