artscapeレビュー
明倫茶会「忘れ傘の国から」
2009年03月15日号
会期:2009.2.28
京都芸術センター[京都府]
美術家のかなもりゆうこさんが座主の明倫茶会に申し込んで参加。きっと趣向を凝らした素敵なお茶会に違いないと予想していたが、大当たり。会場は芸術センター内の古い味わいのある講堂。紙が好きだというかなもりさんのセレクトで透かしやプリントの入ったさまざまな紙がランチョンマットやコースターに使われていたり、お茶がフレッシュフルーツを入れたハーブティーだったり、お菓子は手づくりのレモンケーキだったり。心躍ったのは、小さな干菓子が配られたとき。花のように折られた色紙の上に百合の花のようなお菓子が置かれたが、ピンクの色紙を開いてみたら、「水仙ラカン制す」という回文が小さく印刷されていた。作者は、この会場に消しゴムや折り紙、古本を使ったインスタレーション作品を展示していた福田尚代さん。隣の人はまた違うお菓子と回文が。まったく面識のない人だったが、お互い見合わせてにっこりし合った。主に関東で活動しているという彼女のことを私はこの日初めて知ったが、昔から読書が好きで日常的に回文が頭に浮かんでくるのだと言う。インスタレーション作品も物語性に溢れた繊細なもので、タイトルの言葉から想像が一気に広がり、すっかりファンになってしまった。そんな茶会のあいだ、テーブルの周りでは、オルゴールの上で回るバレリーナ人形のようにひとりの女性がパフォーマンス。まるで絵本の世界に迷い込んだ気分になる素敵な茶会だった。
2009/02/28(土)(酒井千穂)