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石川直樹『最後の冒険家』

2009年03月15日号

発行所:集英社

発行日:2008年11月21日

第6回開高健ノンフィクション賞を受賞した話題作。写真家以上に文章家としての才能が期待されている石川直樹が、その実力を発揮した面白い読物になっている。ただ、これも彼の写真と共通しているのだが、どうも詰めが甘いというか、最後の最後に宙ぶらりんのまま放り出されたような気分になるのはなぜなのだろうか。
この作品に関していえば、肝心の「最後の冒険家」である神田道夫の人間像が、もう一つ書き切れていないように感じてしまうのだ。神田は2008年1月31日に、巨大熱気球「スターライト号」で太平洋単独横断飛行を成し遂げようと栃木県岩出町を飛び立ち、翌2月1日未明に日付変更線を超えたあたりで消息を絶つ。その4年前には石川自身が副操縦士として乗り込んだ「天の川2号」で太平洋横断を試みているが、無残な失敗に終わってゴンドラごと海面に落下し、たまたま通りかかった船に助けられて九死に一生を得ている。たしかに熱気球は、神田にとって命と引き換えにしてもいい夢だったのかもしれない。だが、その最後の飛行はどうみつくろっても無謀としかいいようがないもので、とても「冒険」には思えないのだ。神田はなぜ飛び立ったのか、その答えはどうも石川自身にもはっきりと把握されていないように感じる。そのあたりがすっきりしない読後感につながっているのではないだろうか。
特筆すべきは祖父江慎+cozfishによる造本の見事さ。カバーと表紙との関係、本文用紙の選択、巻末の「写真集」の部分の構成・レイアウト──プロの業がきちんと発揮されている。

2009/02/19(木)(飯沢耕太郎)

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