artscapeレビュー

『シビックプライド』

2009年03月15日号

発行所:株式会社宣伝会議

発行日:2008年11月28日

副題は「都市のコミュニケーションをデザインする」。シビックプライドは、イギリス発の概念で、都市への誇りと愛着をもつこと、そして自分が都市の一部であるという自覚を持つことを指している。都市へのアプローチは、ここ最近かなり多様になってきたといえる。コンパクト・シティ、創造都市、景観、都市美、まちづくり、中心市街地活性化など、さまざまなキーワードが挙げられるだろう。しかし、シビックプライドという概念がやや異なるのは、物理的な何かを操作するというより、都市の一員としての市民についての概念であり、操作対象は例えばロゴであったり、食べ物であったり、イベントであったりと、これまでの都市論が扱う領域とはかなり異なる。副題が示しているように、そこでデザインされる要素は「コミュニケーション」そのものであり、それも端的に言えば、「都市」と「人」とのコミュニケーションであるといえる。本書では、イギリスを中心としたいくつかの都市などにおけるコミュニケーション・ポイントについて、タイプ分けされながら、シビックプライドの醸成するコミュニケーション戦略が分析、紹介、提案されている。例えば、バルセロナ市は、「あなた(=市民)がドキドキすると、私(=バルセロナ)もドキドキする」というメッセージをポスターなどで発信し続けた。単純な考えのようであるが、市民の意識こそが都市にとって大事なのだというメッセージは、これまでの都市計画とはまったく別次元から都市を変える力を持つ。本書を監修した伊藤香織によれば、地方分権化とグローバリゼーションが世界的に都市間競争を加速させた。そしてそれによってシビックプライドの重要性が再認識されている。またしてもイギリス発の概念かという気はするのだが、これ自体イギリスのプロモーション戦略の一つであるという入れ子状の関係があるかもしれない。

2009/02/22(日)(松田達)

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