2019年10月01日号
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artscapeレビュー

2011年12月01日号のレビュー/プレビュー

熊澤未来子 展

会期:2011/10/03~2011/11/10

第一生命南ギャラリー[東京都]

精緻でありながらダイナミックな鉛筆画を描く熊澤未来子の個展。過去作と新作をあわせて8点が発表された。重力から解き放たれたような浮遊感が特徴だが、新作《不安定な生活》では新たな展開を見せていた。描かれているのは、天高く伸びる超高層住宅。外壁が随所で外されているため、部屋の様子があらわになっており、しかも魚眼の構図によって周囲の低い建物が描かれているため、この建物が尋常ではない高度に達していることがわかる。超高層住宅といえば、ある種のセレブリティーの象徴でもあるが、熊澤が描き出しているのは、あくまでも庶民の暮らしだ。畳に敷かれた布団や洗い物がたまった台所、ちゃぶ台にコタツ、そして洗濯竿。こうした記号が私たち庶民の暮らしを過不足なく表わしていることは間違いないが、それらを垂直方向に果てしなく伸ばした空想的な絵には、私たちの潜在的な不安が託されているように思われた。震災以後、津波の恐怖によって高層住宅を求める一方、地震の恐怖がそれを打ち消してしまうダブル・バインドが私たちの心にこびりついているからだ。熊澤の鉛筆画は、当人が意識しているかどうかは別として、この時代を物語る年代記になりうるのではないだろうか。

2011/11/02(水)(福住廉)

加藤翼「11.3project」

会期:2011/011/03~2011/11/03

福島県いわき市平豊間兎渡路[福島県]

この土地のシンボルと思われる塩屋崎灯台が遠くで屹立するなか、その1/2スケールの構造物が、ゆっくりとバランスをとりながら引き興されていった。ロープを引く200人ほどの参加者に加藤翼は「せーの」と何度も声をかける。参加者はその声とともにひとつになった。感動的な光景だった。これまでも、参加者が一丸となってロープを引っぱり、構造体を引き倒したり引き興したりするパフォーマンスを加藤は行なってきた。ただし、それは基本的に芸術的な行為であり、それ以外ではなかった。今回のこれは違う。メインイベントの前座にあたる、地元の歌手による歌謡ショーは1時間以上続いた。演歌や懐メロが高らかに鳴り響き、歌手の冗談が笑いを誘う、その声は地震と津波の猛威の爪痕がいたるところに残る場所を癒していた。当地の人々にとって、これはたんなる芸術活動ではない。久しぶりに顔を合わせた人々、笑い顔の影で、いたるところで涙が流れていた。当地でボランティア活動を続けてきた加藤が、その思いを自分の芸術的な方法をとおして表現した。文化の力で「11.3」という日に「3.11」をひっくり返す。社会のなかへ介入し、加藤の作品にひとつの社会的な意味が生まれた。さて、その成果をどう芸術の問題として展開してゆくことになるのか、その点から今後の加藤の活動に注目していきたい。

2011/11/03(木)(木村覚)

木津川アート2011「明日への記憶」

会期:2011/11/03~2011/11/13

京都府木津川市の木津本町エリア、上狛エリア、加茂エリア[京都府]

昨年に続き2年連続で開催された「木津川アート」。今回は会場を一部変更して、木津・本町、上狛、加茂の3カ所を会場に設定。各エリアをJRやシャトルバスで結ぶ形式となった。地域に残る価値のある建築物や空きスペースを有効活用して現代アート展を行なうのが本展の特徴だが、木津・本町の奥鉄工所(伊吹拓と林和音が出品)と、加茂の加茂JA倉庫(長谷川政弘、tagiruka、竹股桂が出品)は出色の出来栄え。ほかにも質の高い展示が数多く見られ、充実した内容となった。また、地域住民との良好な関係も好印象を残した。来年以降の継続は未定だが、この2年間の成果を生かさないのはもったいない。なんらかのかたちでアートプロジェクトが継続することを望む。

2011/11/03(木)(小吹隆文)

森永のお菓子箱──エンゼルからの贈り物

会期:2011/011/03~2012/01/09

たばこと塩の博物館4階特別展示室[東京都]

商品パッケージを中心に、広告、ポスター、CMなどの企業史料を通じて森永のお菓子づくりの歴史をたどる展覧会。1899年に創業した森永製菓は、1954(昭和29)年に『森永五十五年史』を刊行していおり、その編纂の折に収集された社内資料を保存管理する史料展示室を1955年に開設している。以来、製品パッケージ、パンフレット、販促物、社内報など、企業文化を伝えるさまざまな史料の収集、保存、アーカイブ化を進めているという。1999年には『森永製菓100年史』を刊行し、また自社のウェブサイト「森永ミュージアム」においても、史料の一部を公開している。ただし、史料展示室は外部には公開されておらず、史料の実物が一般の人々の目に触れる機会は少ない。もちろん、このような状況は森永製菓に限られたことではなく、私たちの生活文化を創り上げてきた多くの企業の史料が、たとえ収集、保存されていたとしても、人々の目に触れないままになっている。今回の企画は、企業博物館のひとつである「たばこと塩の博物館」が森永製菓と共同し、モノを通じて企業の文化と歴史を振りかえる優れた試みである。
 展示は、森永製菓のあゆみ、ビスケットやチョコレート、キャラメルなどの代表的な商品の移り変わり、戦後のさまざまなお菓子と、ポスターやCMから構成されている。森永製菓の企業と商品の歴史については先に挙げた二つの社史が充実しており、また創業者・森永太一郎と松崎半三郎については伝記も刊行されており、「歴史をたどる」という意味では展示にはややもの足りないものを感じる。しかしそれでも実物を見る意義は大きい。写真で見るポスターやパッケージでは、スケール感や質感が十分に伝わらないからだ。歴代のおもちゃのかんづめの展示や、TVCMの上映もあり、年代を問わず楽しめる展覧会に仕上がっている点もよい。図録巻末の「森永製菓の企業史料保存と公開──史料室今昔」には森永製菓における企業史料保存管理の取り組みが記されており、これも一読されたい。[新川徳彦]

2011/11/04(金)(SYNK)

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油絵茶屋再現展

会期:2011/10/15~2011/11/15

浅草寺境内[東京都]

木下直之の名著『美術という見世物』(筑摩書房、1999)に詳述されている「油絵茶屋」を再現した展覧会。同書によれば、「油絵茶屋」とは庶民がお茶を飲みながら油絵を楽しむ見世物で、明治7年(1874)、五姓田芳柳と義松の親子が浅草寺の境内で催したという。「美術館」も「展覧会」もなかった時代に、日本で初めて催された油絵の展覧会である。当時の油絵は現存していないが、アーティストの小沢剛による指導のもと、東京藝術大学の学生たちが残された資料を手がかりに絵を再現し、同じく浅草寺の境内に建てた小屋の中に展示した。発表されたのは12点で、いずれも歌舞伎の役者絵。キャンバスではなく板の上に描かれ、大半は黒い額に収められているが、なかには背景から人物や動物を自立させたインスタレーションもある。おもしろいのは、再現とはいえ、それぞれの描き手の個性があらわになっていること。森本愛子による《職人の酒盛》は日本画のように細い線と薄塗りの絵肌だが、花魁を描いた小山真徳による《金瓶桜今紫》は厚塗りだ。二代目市川團十郎が演じた関羽を描いた菅亮平や盗賊の首領《日本駄右衛門》を描いた高橋涼太など、男性の描き手が緻密な筆致による丁寧な写実性を追及しているのに対し、怨霊による復讐劇を描いた高城ちひろや人気力士の苦悩を描いた福田聖子など、女性の描き手が大胆かつ情動的な表現を試みている違いも興味深い。物珍しさに誘われたのか、浅草寺の参拝客が続々と小屋に流れ込み、非常に多くの人たちが油絵を楽しんでいた。とはいえ、気になった点がないわけではなかった。それは、見世物小屋としての不徹底ぶり。提灯や幟が明らかに不足していたため、見世物小屋にしては地味すぎるし、周囲の賑々しい露店に埋没していた印象は否めない。木下によれば、「油絵茶屋」には絵から口上が奪われていく近代化の歴史が体現されているそうだが、浅草界隈の芸人を呼んで画題について解説させるなどの工夫があってもよかった。そもそも「油絵茶屋」が見世物として成り立っていたのは、油絵が当時のニューメディアだったからであり、勝手知ったる画題が新奇な形式で表現されていたからこそ、庶民は「油絵茶屋」に好奇心とともに群がっていたはずだった。だとすれば、学生たちが熱心に取り組んでいる「油絵」という技法こそ、徹底的に見直す必要があったのではないだろうか。

2011/11/04(金)(福住廉)

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