artscapeレビュー

2011年12月01日号のレビュー/プレビュー

村上三郎─70年代を中心に─

会期:2011/11/12~2011/12/17

ART COURT Gallery[大阪府]

村上三郎といえば、「紙破り」など具体美術協会時代の仕事に注目が集まりがちだが、本展では1970年代の活動をフォローしている。彼の1970年代の作品はコンセプチュアルで、写真や資料、パーツ以外はほとんど残っていない。それらを丹念に拾い上げ、一望できるようにまとめ上げたのだから意義深い企画展と言えよう。また、アトリエに残されていた1950~60年代の抽象表現主義絵画も、修復を施して出品されており、その意義も強調しておきたい。このような仕事は、本来美術館が行なうべきものだ。それが思うに任せない現状を憂うばかりである。いっそのこと、本展自体を美術館に売り込んでみてはいかがだろうか。

2011/11/16(水)(小吹隆文)

写真新世紀 東京展 2011

会期:2011/10/29~2011/11/20

東京都写真美術館[東京都]

34回目を迎えた「写真新世紀」展。1,300人を超える応募者数から厳選された優秀賞5名および佳作20名の作品とファイルがあわせて展示された。注目したのは、坂口真理子と鈴木淳。坂口の《訪々入浴百景》はさまざまな家庭や職場に湯船を持ち込み、その場の日常風景の只中で入浴する坂口を映したシリーズ。表情をつくるわけでもなく、かといって殺すわけでもなく、他人の空間でいたって普通に湯につかる坂口の表情がおもしろい。一方、鈴木淳の《だれもいない、ということもない》は、街の風景をとらえた凡庸なスナップショットだが、よく見るとそこに映し出されている人たちはいずれも顔が見えない。つまり、みんながみんなあちら側を向いていて、こちら側を見ていない瞬間をとらえたわけだ。生身のまま被写体と対峙する坂口と、被写体に見られることなく見る鈴木。前者の関心が交流の先に訪れる孤独だったとすれば、後者のそれは孤独の先にやってくる交流と言えるのかもしれない。

2011/11/17(木)(福住廉)

7つの海と手しごと〈第2の海〉「北極海とイヌイットの壁かけ」

会期:2011/011/12~2011/12/18

世田谷文化生活情報センター「生活工房」[東京都]

会期:2011/11/12~2011/12/18
会場:世田谷文化生活情報センター「生活工房」
地域:東京都
サイト:http://www.setagaya-ac.or.jp/ldc/
「7つの海と手しごと」と題し、海をくらしの中心とする人々のクラフトを紹介する企画の二回目。北極海の雪原に生きるイヌイットのつくるフェルトの壁掛けを取り上げている。かつてイヌイットの人々は、動物の骨から針を、腱から糸をつくり、毛皮の服や靴を仕立てていた。現在ではこれら防寒具の素材はダッフルに変わったが、その余り布に鮮やかな色彩のフェルトを施して壁掛けをつくっているという。おもなモチーフは、狩猟を中心としたイヌイットたちの生活の姿。これらがフェルトと刺繍糸によって、具象的に描かれている。展示されているフェルト製の人形も非常に具象的である。そこには生活の姿を記録に留めておこうという意識も働いているのだろうか。一回目の「クナ族のモラ」では装飾の技法や歴史の解説、現地に取材したビデオの上映があったために刺繍を手掛ける女性たちの生活の姿を良く知ることができたが、今回の展覧会にはそのような解説が乏しかったことが残念である。イヌイットたちはいつ頃からこのような刺繍を手掛けるようになったのか。刺繍はどのように利用されているのだろうか。[新川徳彦]

2011/11/18(金)(SYNK)

龍野アートプロジェクト2011「刻の記憶」

会期:2011/11/18~2011/11/26

うすくち龍野醤油資料館周辺の醤油蔵、龍野城、聚遠亭(藩主の上屋敷)[兵庫県]

薄口醤油や素麺の産地として知られる兵庫県たつの市。同市はまた、古い歴史を持つ城下町であり、三木露風をはじめ文学者を多数輩出した土地としても知られている。その城下町エリアの3カ所を会場に行なわれたのが本展である。出品作家は、尹熙倉、東影智裕、小谷真輔、佐藤文香、芝田知佳、井上いくみ他ルーアン美術学校の卒業生たち。また、京都市立芸術大学准教授の加須屋明子が芸術監督を務めた。本展で特に印象深かったのは醤油蔵の展示で、作品の質はもちろんだが、空間自体のポテンシャルが大変高く、その相乗効果で非常に素晴らしい展示が見られた。この醤油蔵は、是非今後も有効活用してほしい。たつの市の城下町は小さいが、古い街並みが比較的良好に保存されており、観光地としても魅力的だ。このプロジェクトを単発で終わらせるのではなく、地元の文化・観光資産として長期的に育ててほしいと思う。

2011/11/18(金)(小吹隆文)

いけばな雑司が谷2011

会期:2011/11/17~2011/11/20

旧高田小学校[東京都]

鬼子母神にほど近い廃校で催された生け花の展覧会。「生け花」というと格式高い伝統芸術の印象が根強いが、本展で発表されたのは型破りな生け花ばかり。流派の異なる17人の華道家/作家たちが、教室や廊下などで作品を展示した。教室の一面にススキの穂を渦巻状に立ち並べたり(太田光)、間伐材を極薄にスライスした素材「かなば」を縦横無尽に張り巡らせたり(日向洋一)、広い空間に決して見劣りしない作品が多い。いまでは廃校を使ったアートイベントは珍しくないが、これほどまでに空間の容量と作品のスケール感が調和した展覧会は決して多くはないだろう。なかでも抜群だったのが、上野雄次。乗用車の屋根に木の枝を組み合わせた巨大なオブジェを設置し、都内各所の繁華街を激走した。会場には、その様子を記録した映像が流されていたが、車高をも上回る大きなオブジェが街を水平移動していく姿は異様で、街の人びとから大きな注目を集めていた。ただし、この作品は非日常的な出来事によって日常を異化するパフォーマンスにすぎないわけではない。映像をよく見ると、木の枝のあいまに植物の葉が生けられているのがわかるから、これはやはり正真正銘の「生け花」である。巨大な死(木の枝)に包まれながら疾走する、わずかな生。生を美しく死に送り届けることが生け花の本質だとすれば、上野はそれを花器から解き放ち、私たちの都市生活の只中を走らせることで、それを反転して見せた。死から生を強引に導き出そうとするという点で、上野雄次の表現は「生け花」というより、まさしく「はないけ」なのだ。

2011/11/18(金)(福住廉)

2011年12月01日号の
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