2020年08月01日号
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artscapeレビュー

2011年12月01日号のレビュー/プレビュー

ブリューゲルの動く絵

会期:2011/12/17

ユーロスペース[東京都]

タイトルどおり、ブリューゲルの絵を動かした映画。レイ・マイェフスキ監督は、16世紀のフランドルを舞台にしたブリューゲルの絵画《十字架を担うキリスト》を、最新のCG技術によって映像化した。そびえ立つ岩壁の上の風車小屋や車刑のための高いポール、そして十字架を背負ったキリストを中心とした群像。絵画と同じ風景のなかで絵画と同じ人物が動き出し、画面に表わされていない前後の物語が想像的に描かれてゆく。演出上の最も大きな特徴は、絵画には描かれていないブリューゲル本人(あの『ブレードランナー』のルトガー・ハウアー!)が登場していることと、そのブリューゲルをはじめ絵画に登場しない何人かだけが言葉を語る反面、絵画に登場している人物たちは言葉を一切発しないこと。会話によって物語を綴るという文法が採用されていないため、ふだんの映画の見方がまったく通用しないところがおもしろい。むろん、ブリューゲルに精通している人であれば、また違った楽しみがあるのかもしれないし、そうでない人にとっては退屈以外の何物でもないのかもしれない。けれども、この映画の醍醐味は絵画のなかに入ってあれこれ想像をめぐらすという私たちが常日頃おこなっている鑑賞経験そのものを映像化した点にあるように思われる。一枚の絵から物音や自然音を再生することはあっても、人と人の会話まで想像することは稀だろうし、映画のラストで美術館に展示されているブリューゲルの実作をズームアウトしていくシーンは、明らかに鑑賞という想像的な脳内活動の終わりを示していたからだ。その意味で、この映画はブリューゲルについての映画というより、ブリューゲルの絵画を鑑賞する私たち自身を描いた作品だと言えるだろう。

2011/11/09(水)(福住廉)

川西英コレクション収蔵記念展「夢二とともに」

会期:2011/11/11~2011/12/25

京都国立近代美術館[京都府]

神戸を拠点に活動した版画家の川西英。彼は自身と同年代の版画作品等を1,000点余も所蔵しており、それらが一括して京都国立近代美術館に収蔵されたことを記念して行なわれたのが本展だ。コレクションの約1/3を占めるのが竹久夢二で、本展でも夢二の作品群がメインとなっている。聞くところによると、国立美術館に竹久夢二の作品が収蔵されるのは初めてらしい。また、同コレクションには恩地孝四郎など創作版画運動の作家も多数含まれており、彼らと竹久夢二を同一ライン上で扱うことにより、日本の版画史に新たな1ページが開かれるかもしれない。

2011/11/10(木)(小吹隆文)

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藤原新也の現在「書行無常」展

会期:2011/11/05~2011/11/27

3331 Arts Chiyoda[東京都]

写真家の藤原新也の個展。旅先で書を行なうシリーズを中心に、被災地をとらえた写真などもあわせて展示した。藤原新也といえば、「人間は犬に食われるほど自由だ」というコピーで知られる写真家だが、その一方で時事問題についても積極的に発言する社会批評家としても活躍している。だが今回の展示で明らかになったのは、アーティストとしての藤原新也だ。世界各地の現場で繰り広げられる書は、さながらアクション・ペインティングのような運動性を感じさせるし、広大な雪原を「春」という形に踏み固め、その上にスプレーで着色したり、筆に見立てた髪の毛に墨汁を滲みこませたヌードモデルを抱きかかえながら書を書くパフォーマンスなどは、まさしくアーティストそのもの。「老いてなお益々盛んな…」と言ったら失礼かもしれないが、ここにきて写真や文章にとどまらず、「なんでもやってやる!」という境地に達したのかもしれない。このアグレッシヴなパワーが来場者を圧倒したのは事実だが、本展における藤原新也のありようは表現や芸術にかかわる者にとってある種のモデルを示していたようにも思えた。このどうしょうもない世界の只中で生きてゆき、やがて死んでゆかねばならない私たち自身には、「なんでもやっていい」という甘えはもはやなく、「なんでもやらざるをえない」という厳しさしか残されていないからだ。であればこそ、文字どおりジタバタしながらもがき苦しみ、そうやって身体を社会に晒して右往左往した先に、この苦境を突破する人間の根源的な生命力を見出すほかない。アーティストのように、いやアーティストとして、あらゆる人びとがたくましく行動しなければ太刀打ちできない時代になってしまったのである。本展で示されていたのは、この危機に身をもっていちはやく対応した人間の記録だったと思う。

2011/11/10(木)(福住廉)

川西英コレクション収蔵記念展「夢二とともに」

会期:2011/011/11~2011/12/25

京都国立近代美術館[京都府]

京都国立近代美術館は、2006年から、版画家・川西英(1894-1965)が集めた1千点余の作品と資料の収集をはじめ、今年の10月にその収蔵を完了したと言う。本展は「川西英コレクション」の収蔵完了を記念するもの。同コレクションには、当時、西川と交流のあった創作版画家たちの代表作をはじめ、富本憲吉やバーナード・リーチといった工芸家たちが手がけた版画も含まれている。とくに大正時代に一世を風靡した画家・版画家の竹久夢二(1884-1934)の作品と資料が充実しており、コレクションの三分の一を占めている。これが「夢二とともに」というサブタイトルがついたわけ。展覧会場に入ると、本の表紙絵や便箋、版画作品がずらり。インスタレーションが主流の現代アートの展示と比べれば迫力はないものの、大正時代ならではのレトロ感と、デザインの愛らしさがあってほっとする。この秋、ぶらりと立ち寄ってみるのもいいかもしれないと思った。[金相美]

2011/11/12(土)(SYNK)

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梅田哲也 展覧会「小さなものが大きくみえる」

会期:2011/11/12~2011/12/04

新・福寿荘[大阪府]

大阪市西成区の下町にある築60年のアパート1棟を丸ごと使って、梅田哲也の大規模なインスタレーションが披露された。作品は日用品や家電を改造した装置的なもので、光や水、音などを駆使するのが特徴である。展示は室内だけでなく屋根裏にも及び、床をぶち抜いて1階と2階にまたがる作品など、大胆かつ自由闊達な仕上がりになっていた。言い換えれば、子どもの頃に秘密基地をつくったノリそのままであり、来場した子どもたちが大喜びしていたのも当然と言えよう。梅田は神戸アートビレッジセンターでも個展を同時開催しており、まったく異なる環境でどのような世界を披露しているのかにも興味が募る。

2011/11/12(土)(小吹隆文)

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