artscapeレビュー

2013年02月01日号のレビュー/プレビュー

フィンランドのくらしとデザイン ムーミンが住む森の生活

会期:2013/01/10~2013/03/10

兵庫県立美術館[兵庫県]

アルヴァ・アアルト、カイ・フランク、マリメッコなど北欧デザインの優品が集結し、トーヴェ・ヤンソンの『ムーミン』の原画が見られることで、人気を博するであろう本展。しかし、展覧会導入部で示される叙事詩『カレワラ』の重要性を知ることこそが、本展の核心ではなかろうか。19世紀末から20世紀初頭のフィンランド絵画に描かれた北国の風景、アルヴァ・アアルトの椅子で活用される合板技術、マリメッコのテキスタイルに描かれた花々、それらの根底には、必ずと言ってよいほど『カレワラ』に記された世界観が横たわっている。北欧デザイン=おしゃれ、ムーミン=かわいいで終わるのではなく、ひとりでも多くの人が『カレワラ』の重要性に気づくことを望む。

2013/01/09(水)(小吹隆文)

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美術にぶるっ! ベストセレクション日本近代美術の100年

会期:2012/10/16~2013/01/14

東京国立近代美術館[東京都]

近代と現代は何がどうちがうのだろう? 長年気になっていた疑問が、この展覧会を見て少しだけ解けたような気がした。
本展は、同館が所蔵する美術品のなかから、日本の近代美術を中心に厳選して展示したもの。萬鉄五郎《裸体美人》や横山大観《生々流転》から和田三造《南風》や福沢一郎《牛》まで、日本の近代美術にとって欠かすことのできない名品が続く展示はたしかに圧巻だ。とりわけ川端龍子《草炎》は、群青色を背景に金色の草花を描いた、きわめてシンプルな屏風絵だが、その鮮やかな対比が美しいのはもちろん、まるで左方向に草花が行進していくような躍動感を感じさせるところがすばらしい。日本近代美術の底力をまざまざと見せつけた展観である。
しかし、戦後の現代になると様相が徐々に変わってくる。物が描かれなくなる代わりに、コンセプトが重視されるようになるのである。そのような転換をていねいに解説する仕掛けがあれば、理解のための努力も惜しまなかったのかもしれない。だが、それが欠落しているばかりか、珠玉の近代を目の当たりにした直後では、なおさら薄ら寒い印象しか残らない。いったい、「現代」は私たちに何をもたらしたというのだろう?
そして、何よりの疑問が、そのようなコンセプチュアルな傾向を「現代美術」の末端に位置づけている反面、1950年代に焦点を当てた「実験場1950s」を「第二部」として外在化している点だ。いわゆる「肉体絵画」やルポルタージュ絵画、雑誌「暮しの手帖」、デザイン、写真などの豊かな成果を考えれば、この「実験場1950s」こそ、本来は「第一部」のなかに組み込まれなければならない。それをわざわざ傍流に外し、コンセプチュアル・アートを主流に含める展示構成に、いったいどんな根拠があるのか、まったく理解に苦しむ。
近代美術に「ぶるっ」としたことはまちがいない。だが、現代美術の貧しさが私たちの背中に冷たい汗を落としたこともまた事実である。次の100年を歩むには、現代美術の歴史を本格的にオーバーホールすることから始めるべきだろう。

2013/01/09(水)(福住廉)

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溶ける魚 つづきの現実

Gallery PARC、京都精華大学ギャラリーフロール[京都府]

会期:2013/01/10~01/20(Gallery PARC)、2013/01/10~01/26(京都精華大学ギャラリーフロール)

荒木由香里、衣川泰典、木村了子+安喜万佐子、高木智広、花岡伸宏、林勇気ら若手・中堅作家10名+1組による自主企画展。アンドレ・ブルトンの著作から引用した展覧会名は、シュルレアリスムが生まれた第一次世界大戦後と、東日本大震災後の日本の社会状況に共通性が感じられるという、出品作家たちの認識による。作品を見ると、シュルレアリスムから技法上の影響を受けていたり、モチーフに関連性が見受けられる者もいた。しかし、彼らはシュルレアリスムの再興を狙っているのではない。本展の主題は、シュルレアリストたちが無意識や夢などの領域を探究して新たな美を開拓したように、いまを生きる作家も今日の美を追求しよう、そのために自身の制作を再確認しようという、意志の提示なのだ。筆者が見る限り、彼らの目的は十分達せられたように思われる。

2013/01/12(土)(小吹隆文)

GUN 新潟に前衛があった頃

会期:2012/11/03~2013/01/14

新潟県立近代美術館[新潟県]

1967年に新潟県長岡市で結成され、その後も新潟県内を拠点にしながら活動を続けた前衛美術のグループ「GUN」の回顧展。美術家の前山忠と堀川紀夫らメンバーによる作品をはじめ、関係する美術家や美術評論家による作品や資料など、合わせて130点あまりが一挙に展示された。これまでにも、例えばトキ・アートスペースが「GUNの軌跡展」(2009)を催すなど、先行事例がなかったわけでないにせよ、本展は「GUN」の全貌を本格的に解き明かした画期的な展覧会である。
「GUN」の大きな特徴は、それが地方都市を拠点にしながらも、東京やニューヨークなど世界的な大都市の美術の動向と同期していたという点にある。ランド・アートやコンセプチュアル・アート、ポリティカル・アートなど、「GUN」の作品は絶えず変容していたが、そこにはたしかに60年代後半から70年代にかけての世界的な美術の流れが入り込んでいた。1964年に開館した日本で最初の現代美術館である長岡現代美術館の影響力は無視できないとはいえ、地方都市にいながらにしてこれだけの作品を制作していたことには驚きを隠せない。
なかでも代表的なのが、《雪のイメージを変えるイベント》(1970)である。十日町市に流れる信濃川の河川敷に降り積もった大雪原をキャンバスに見立て、農業用の噴霧器などで顔料をまき散らしながら絵を描いた。記録写真やそれらを編集したスライドショーを見ると、冷たい雪の上に広がる色彩の抽象画がじつに美しい。半裸の堀川が真っ赤に染まりながら雪に挑んでいるから、この作品はすぐれたランド・アートであると同時に、肉体パフォーマンスという一面もあったことがわかる。雪という無尽蔵にある素材を最大限に活用することで、世界的な文脈と接続しうる作品を制作したのである。
古今東西、芸術はつねに自然からの贈与によって成り立ってきたことを思えば、「GUN」の活動は自然と近い地方で制作している美術家にとって、ひとつの希望となるのではないか。「GUN」の由来は、「がーん」であり「眼」であり「癌」であり「gun(銃)」でもあったが、もしかしたらそこには「願」も含まれているのかもしれない。

2013/01/12(土)(福住廉)

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大阪市立デザイン教育研究所「紙技展2013」

会期:2013/01/05~2013/01/12

ATC10F デザインギャラリー[大阪府]

大阪市立デザイン教育研究所(OMCD)の在学生による、紙を用いたアート・デザイン作品の展示会が大阪南港にあるATCで開催された。大阪市立デザイン教育研究所は公立では全国唯一のデザイン専修学校。大阪市立工芸高校(大阪市指定有形文化財に指定)に隣接しており、その姉妹校でもある。「紙」は身近で扱いやすい材料であるため、よく試作や練習に用いられるが、それゆえに扱いにくい、難しい材料でもある。というのは、数あるもののなかから個性や特色のある作品に仕上げる、つまり他の作品との差別化をはかるためにはさらなる工夫を凝らさなければならないからだ。会場では紙粘土の置物から商品パッケージ、ライト、インストレーション作品まで、若い感覚や工夫が光る作品が多く見受けられた。「素材とはなにか」「デザインとはなにか」についてあらためて考えさせられる機会であった。[金相美]




会場風景

2013/01/12(土)(SYNK)

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