artscapeレビュー

2013年02月01日号のレビュー/プレビュー

マスダさんちの昭和レトロ家電

会期:2012/12/01~2013/02/15

大阪市立住まいのミュージアム:大阪くらしの今昔館[大阪府]

昭和30年代の家電やその面白さを紹介する展覧会。昭和30年代といえば、戦後の混乱がひと段落し日本の経済と生活環境が整っていった時代であった。白黒テレビ・冷蔵庫・洗濯機など、いわゆる「三種の神器」をはじめとする、さまざまな家電製品が誕生し、人々の暮らしを大きく変えていった。アメリカデザインの影響からだろう、当時の家電は丸みを帯びた、いわば流線型デザインが多く、その形態から時代性(昭和の空気)が感じ取れる。会場には家電だけでなく、石鹸や歯ブラシなどの日常用品から、雑誌やチラシ、ポスターなどの印刷物も展示されており、当時の暮らしぶりを深く理解することができる。本展は増田健一氏の20年にわたるコレクションを紹介するものだというが、コレクションの素晴らしい保存状態と、なによりその数(500点余)や多彩さに敬意を払いたい。[金相美]

2013/01/17(木)(SYNK)

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島田洋平 写真展 SHIGOTOBA

会期:2013/01/08~2013/02/03

Kobe 819 Gallery[兵庫県]

大工、自動車整備工、シェフ、落語家、紙芝居屋などさまざまな職業人を、その職場と共に撮影した作品14点を展示。作品テーマはアウグスト・ザンダーの《20世紀の人々》を連想させるが、島田の作風はまったく対照的だ。商業写真で鍛え上げたテクニックをフル活用しており、特に照明とレタッチの冴えは特筆に値する。明らかにストレート写真ではなく、むしろ映画などの特撮の領域に近いのではないかと思った。20世紀のザンダーと21世紀の島田、両者を写真の技術史的観点から比較したら面白そうだ。作品数が増えるほど魅力を増すシリーズなので、今後の作品拡充を期待している。

2013/01/19(土)(小吹隆文)

岩隈力也 展 LAUNDRY

会期:2013/01/07~2013/01/19

コバヤシ画廊[東京都]

岩隈力也は、生粋の平面作家である。VOCA展に二度出品し、2011年には「ARTIST FILE」展(国立新美術館)にも参加した。色彩の美しい流動性によって対象を描く平面作家として高く評価されてきたと言ってよいだろう。ところが、今回の個展で発表された新作は、これまでの作品と激変していたので驚いた。展示されていたのは、空中にぶら下がった大小さまざまな布の数々。わずかに色が残されているのがわかるが、いずれも皺くちゃに捩れており、「LAUNDRY」というタイトルに示されているように、その見た目はまるで物干し竿に干された洗濯物のようだ。描かれていたのは、犯罪被害者や加害者、そして死者の顔。いずれも水で洗い流しているので、残された図像をはっきりと確認することは難しい。おぼろげに浮かんでくる人の顔が、薄れゆく死者の記憶と照応しているようで、思わず背筋に戦慄が走る。絵画は、描くことではなく消すことによっても成立しうる。むしろそのことに今日的なリアリティーがあることを岩隈は示してみせた。

2013/01/19(土)(福住廉)

フィンランドのくらしとデザイン──ムーミンが住む森の生活展

会期:2013/01/10~2013/03/10

兵庫県立美術館[兵庫県]

会場に入るなり、盛況ぶりに驚いた。観客のお目当てはムーミンの原画かと思いきや、19世紀末の絵画と工芸のコーナーも作品に熱い眼差しを向ける人たちで一杯だ。関係者の話によると、本展の人気の背景には北欧雑貨のブームとフィンランド・ブームの両方があるらしい。確かに、北欧デザインは日本で長年にわたり愛されてきているとはいえ、同デザインがわが国で紹介され始めた1960年代、それは一部の洗練された人たちが愛でるものだったろうし、ひょっとしたらスウェーデンのデザインとフィンランドのそれの区別もおぼつかなかったかもしれない。しかし、情報化が格段に進んだ現在は、北欧のなかでもとくにフィンランドが好きという人たちが大勢いるのだろう。だから、本展の成功は、いわゆるヘーゲル的なデザイン史の観点からフィンランド・デザインを通観することを避け、北国の厳しくも美しい自然のなかで育まれた文化という視点から多種多様な要素を採り上げたことにある気がする。
 たとえば、本展ではムーミンとイッタラの器とモダニスト建築家であるアアルトの椅子が同じ部屋に並ぶという、デザイン史的視点からみればいささか型破りなことが起こる。だが、それはフィンランドを愛する者からみればすんなりと受け入れられるものなのだ。可愛らしいムーミンもモダンな合板椅子もフィンランドの深い森に対する作者の愛着から生み出されたものであることに変わりはないのだから。同様に、マリメッコのワンピースが高い天井からぶら下がり、その周囲にさまざまな雑貨デザインが並んだ空間もフリーマーケットのような雰囲気があり、良い意味で慣例破りの展示といえる。個人的には、いままで書籍でしかお目にかかれなかった19世紀末の建築家エリエル・サーリネンの家具がこの目で見られることに感激した。[橋本啓子]


展示風景
写真提供=兵庫県立美術館


エリエル・サーリネン《試作椅子「コティ」》、1903年
フィンランド・デザイン・ミュージアム、photo ©Niclas Varius

2013/01/19(土)(SYNK)

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森と湖の国──フィンランド・デザイン

会期:2012/11/21~2013/01/20

サントリー美術館[東京都]

一般的にフィンランドのデザインには、生活に密着し、機能的・合理的でありつつも、美しさを追求したものが多い。短期間に消費されてしまうのではなく、長期にわたって作られ続け、売られ続け、そして使い続けられるデザインである。フィンランドのガラス・デザインにも同じことが言える。本展は、フィンランドのガラス・デザインの歴史を辿り、そしてこれからのデザインを考える展覧会である。フィンランドのガラス産業の歴史は、ヨーロッパの他の国と比べてそれほど古くはない。産業として本格的にガラスが製造されはじめたのはスウェーデン統治下の18世紀半ばで、ロシア統治下(1809~1917)の19世紀後半から拡大する。イッタラ社が設立されたのも1881年のことである。デザインを重視し、国際市場で高く評価されるようになったのは、家具や陶磁器と同様に1950年代。戦後、外貨獲得という国策もあって、デザイナーと職人のコラボレーションによって、モダン・デザインをリードする製品が作られていった。カイ・フランク、タピオ・ヴィルッカラらのデザインは、まったく古さを感じさせない。しかし問題は、現在そしてこれからのガラス・デザインであろう。アートとしてガラス作品を作り、国際的に活躍するアーティストも増えている。ハッリ・コスキネンを最後に現在イッタラ社では企業デザイナーを内部に抱えず、作品ごとに外部から招聘するかたちをとっているという。となると、イッタラ、ひいてはフィンランド・デザインのアイデンティティはなにを拠り所にすることになるのだろうか。「優れた品質によって、人々に、『自分は長く大切に使えるものの選択をした』という満足感を与えること。そして、それを人々が買える範囲の、できる限り押さえた価格で提供する……人々が『これは自分のライフスタイルへの投資なのだ』と思って買っていってくれる、それこそがイッタラ社のブランド力だと思う」というコスキネンの言葉★1は、海外製品との熾烈な競合に曝されている日本メーカーのプロダクトにとっても非常に示唆的である。[新川徳彦]

★1──『森と湖の国──フィンランド・デザイン展図録』(サントリー美術館、2012、174頁)。

関連レビュー:フィンランドのくらしとデザイン──ムーミンが住む森の生活

2013/01/19(土)(SYNK)

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2013年02月01日号の
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