artscapeレビュー
2013年02月01日号のレビュー/プレビュー
木野智史 展
会期:2013/01/14~2013/01/26
ギャラリー白3[大阪府]
ロクロ成形と磁土にこだわった、シャープなフォルムの陶芸作品を発表する木野智史。それらは実用品ではないが、かといってオブジェ(=ファインアート)の一言で片づけられるものでもない。陶芸の技法、精神、歴史を尊重し、陶芸でしかありえない、それでいて従来の何ものとも違う造形。それが彼の目標ではなかろうか。本展では、ロクロ成形した円環の1カ所に切れ目を入れ、その部分を起点に大胆な反りを入れた作品を発表。紙にサッと描いた一本線のような、緊張感のある形態をつくり出すことに成功した。その形態に、磁土特有の白い地肌と澄み渡る青磁釉がマッチしていたのは言うまでもない。
2013/01/14(月)(小吹隆文)
吉岡佐知 展
会期:2013/01/15~2013/01/20
ギャラリー恵風[京都府]
芭蕉や果実をモチーフにしたカラフルで様式的なスタイルで知られる吉岡の絵画。ところが本展では、まったく新たな試みが見られた。その試みとは墨絵で、これまでの彼女には見られない、ざっくりした大胆な筆致が特徴である。また、半分に折った紙に描いて半面は滲みだけで図像をつくるという、デカルコマニー的手法も用いられていた。綿密にコントロールされたこれまでの作風の真逆ともいえる新作は何を意味するのか。その答えは次回以降の個展を待たねばならないが、彼女が新たな領域に踏み込んだのは間違いない。
2013/01/15(火)(小吹隆文)
田中加織 展 庭島
会期:2013/01/04~2013/01/16
gallery near[京都府]
蛍光色のピンク、グリーン、オレンジなどで鮮やかに彩色された、浮島と樹木、あるいは霊山。それらはまるで人工着色料や甘味料をたっぷり使ったお菓子のようだ。田中は「人工的自然物から感じられる人の意識」をテーマに作品を制作している。つまり、日本庭園や盆栽などに見られる日本人特有の自然観を、現代的な感覚で表現する画家と言えよう。彼女の作品は過去に何度も見ているが、近年は地元関西での発表が少なかったので、本展は貴重な機会だ。特に大作を見られたのが収穫だった。
2013/01/15(火)(小吹隆文)
アルゴ
会期:2012/10/26
ヒューマントラストシネマ渋谷[東京都]
「007スカイフォール」と対照的だったのが、ベン・アフレック監督主演の「アルゴ」。イラン革命の1979年、在イランのアメリカ大使館を舞台にした一大脱出劇をアメリカ人の視点から描いた。大使館を占拠したイラン市民から逃れた大使館員を「映画の撮影」というトリックを用いて救出するという物語は、たしかに痛快ではある。ところが、暴徒と化したイラン人はおろか、街中で米国人を取り囲むイラン人すら凶暴に描き出すなど、その視点があまりにも米国側に偏重しているため、映画をみずから陳腐にしてしまっている。「敵」はあくまでもイランであるという前提は決して揺るがないのである。これほど居直った態度でステレオタイプをなぞる映画は珍しいが、このような一方的な自己肯定を楽しむ余裕は、もはや現代人にはない。
2013/01/16(水)(福住廉)
風間サチコ展「没落 THIRD FIRE」
会期:2012/12/08~2013/01/19
無人島プロダクション/SNAC[東京都]
風間サチコほど同時代と向き合い、それを表現しようと格闘しているアーティストはいないのではないか。東日本大震災以後、原子力発電所という戦後日本にとっての内なる敵を表現するアーティストは依然として数少ないが、そうしたなか風間こそ最も突出してすぐれたアーティストであることを、本展は証明した。
その理由は、同時代の主題に取り組む類まれな粘り強さが、作品の端々からにじみ出ており、それが見る者にたしかに伝わってくるからだ。それは版画というメディアに由来する制作技法上の持久力ばかりではない。風間は作品を制作する前に徹底したリサーチを繰り返しており、歴史の知られざる事実を掘り起こすことで、それらを作品のなかに巧みに取り込んでいる。原発事故を起こした福島第一原発が建つ土地には、かつて陸軍磐城飛行場があり、多くの若者たちが特攻隊員として戦場に飛び立っていた。しかも長崎に原爆が落とされた1945年8月9日、米軍による空爆によってこの基地は壊滅したのである。
風間サチコの版画作品には、こうした歴史的事実と時事的な出来事が造形面でみごとに融合しているが、その根底には言いようのない怒りが満ち溢れている。それは、原爆を日本人の頭上に落としたばかりか、それと同じ原子力の平和利用を嘯きながら原発を日本に売りつけた米国への怒りであり、それを積極的に受容して、原発事故以後も強引に再稼働を推し進めようとする財界人への怒りであり、こうした事態をみすみす甘受してしまっている私たち自身への怒りでもある。
《噫!怒涛の閉塞艦》は、風間の粘り強い怒りがみごとに昇華した傑作である。横幅4メートルを超える大作で、荒波のなかを突き進む戦艦を描いているが、その艦上には水素爆発した福島第一原発と東京電力の本店が見えている。後景には広島と長崎の原爆によるキノコ雲と、1954年にアメリカの水爆実験によって被曝した第五福竜丸、そして日本初の原子力船である「むつ」の亡霊。それらを飲み込むほど迫力のある荒々しい海波は、戦時中の軍艦を勇ましく描いた絵はがきから引用されたという。つまり、戦争に突き進む高揚感と破滅を重ねあわせながら原子力をめぐるクロニクルを描き出したのである。
この戦艦が向かう先は目に見えている。これを止めるには、私たちは「怒りの持久力」をもっと学ばなければならない。
2013/01/17(木)(福住廉)