artscapeレビュー

2015年03月01日号のレビュー/プレビュー

大槻香奈実験室その2「かみ解体ドローイング」

会期:2015/02/12~2015/03/06

ondo[大阪府]

少女をモチーフにした、イラストあるいは漫画的画風の絵画で知られる大槻香奈。少女が意味するのは、自身の内面、現代の風俗、価値観といったものであろう。彼女は通常の個展とは別に、「大槻香奈実験室」と題した番外編活動を2014年から始めた。本展はその第2弾である。今回のテーマは「ドローイング」だ。過去のドローイングを大量に出品したほか、複数のドローイングを組み合わせたコラージュ作品も発表し、彼女の中で存在感を増しつつあるドローイングについて再考を試みている。また、会場の一角には制作スペースが設けられ、公開制作も随時行なわれているようだ。あいにく私が訪れた日は作家不在で、さらに深く創作の秘密を知ることはできなかった。

2015/02/18(水)(小吹隆文)

チャングムが生きた時代──女性たちの生活と服

会期:2014/01/08~2015/03/29

高麗美術館[京都府]

テレビドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』は、李王朝につかえる女官、チャングムが宮廷料理人から医女になり王の主治医にのぼりつめるまでを描いた人気歴史ドラマである。次々にふりかかる難題に猛然と立ち向かう主人公の姿を手に汗握る思いでみていた人もいるだろう。本展はドラマの舞台となった朝鮮王朝の宮廷文化を伝える展覧会。第一部「女性の生活と服」、第二部「心と身体と飲食」、第三部「婚礼衣装に身をつつんで」からなる三部構成。二室にわかれた会場には、チマ、チョゴリ、唐衣などの衣装を中心に、座卓や屏風などの室内装飾品、陶磁器や文献などの医学関係の資料などがところせましと展示され、当時の優雅な宮廷生活を伝えている。なかでも男女の婚礼衣装の華やかさは圧巻である。
展示された衣装はいずれも復元品。14世紀終わりから20世紀初頭までおよそ500年つづいた朝鮮時代、王族や貴族は儒教の教えに則って土葬にされ、遺体を二重、三重に衣装で覆って埋葬する習慣があったという。遺物に忠実に復元されたとはいってもどの墓から発掘された誰の衣装の復元なのかといった詳しい解説がないこともあって、展示品はテレビドラマに登場した宮廷衣装のイメージそのままにただただ鮮やかで美しい。チョゴリ(上着)はより短くタイトに、チマ(スカート)はより高い位置から着られるように、時代をおって衣装の形が少しずつ変化していく様子がわかるように展示が工夫されており、ゆるやかだが確かな生活の変化が見てとれる。また男女が厳格に区別されるなか、刺繍は女性たちが腕を磨き個性を発揮する数少ない機会であったという。胸背といわれる男性の官服を飾った豪華な刺繍には、それを施した女性たちの気迫のようなものがこめられている。そのほか、胸飾りや髪飾り、化粧容器や裁縫道具など、豪華だがどこか素朴で控えめな品々には朝鮮文化特有の柔らかで優しい雰囲気が感じられる。
ところで、会場となった高麗美術館は在日朝鮮人一世の鄭詔文氏によって在日の若い世代に祖国の歴史や文化を普及するために創設された美術館である。望郷の思い、そして次世代を思いやる優しさが会場にも漂っていた。[平光睦子]

2015/02/18(水)(SYNK)

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幻想絶佳:アール・デコと古典主義

会期:2015/01/17~2015/04/07

東京都庭園美術館[東京都]

開館30周年を記念するこの展覧会は、1933年に建てられたアール・デコ様式の邸宅である朝香宮邸のアンリ・ラパンによる室内装飾の特徴を「古典主義」をキーワードに読み解く試み。両大戦間期に生まれた様式であるアール・デコは、アール・ヌーボーの流れるような曲線的デザインに対して、直線的、幾何学的な形態が特徴に挙げられる。合理的な精神を象徴するそのスタイルは、建築や工業製品に用いられ、また機械による生産や合成樹脂などの新素材を用いたプロダクトに現われたことで、新しい時代の都市生活と結びついた様式というイメージがある。しかしながら、アール・デコの絵画や彫刻、装飾美術に用いられた主題はさまざまで、けっしてモダンとは限らない。主題の源泉は時間と空間の双方の意味で多岐にわたり、エジプトや古典古代への憧憬、アジアやアフリカなどの異文化に対するエキゾチシズムも見られる。ラパンが描いた朝香宮邸の壁画にもまた18世紀の新古典主義様式からの引用が見られる。ではなぜこのような主題が選ばれたのか。展示では古典を主題としたアール・デコの作品が集められ、朝香宮邸の装飾空間を読み解いてゆく。
 本館展示室はその室内空間を活かして家具や美術品を配した「アンサンブル展示」を再現し、当時の博覧会の装飾美術の分野で行なわれた空間と美術との関係性が検証される。新館は絵画、彫刻、装飾美術の下絵など。しかしそれはモダンな生活を描いたものではなく、おもにローマ賞を受賞した美術家たちによる古典を主題とした作品である。美術の分野では第一次世界大戦後に秩序への回帰という傾向とともに古典古代への回帰が広範に見られた。ローマ賞の美術家たちはアカデミーで身につけた古典主義的な手法を下敷きにしながら、現代的な表現を生み出そうとしていたのだという。アンリ・ラパンはローマ賞受賞者ではないが、国立美術学校で絵画を学び、またローマ賞受賞者とともに公共プロジェクトを手がけている。すなわち、アール・デコの美術に用いられた主題の源泉は本来多様であるが、こと公共的空間の装飾について言えば古典的なモチーフが多くみられ、それはラパンが朝香宮邸のなかでも非・私的な空間である小客室・大客室・大食堂の3室に描いた壁画に古典的主題を選択したことと共通する。多様な主題を選びうるなかでなぜ古典主義なのかという問題に立ち戻れば、ヨーロッパ文化の正統に連なるモチーフとしての古典主義と、新しい時代の表現様式としてのアール・デコの組み合わせが、このような空間を生み出したことをこの展覧会は示していると理解してよいだろうか。[新川徳彦]


本館大食堂


新館展示風景

2015/02/18(水)(SYNK)

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岡崎藝術座『+51 アビアシオン, サンボルハ』

会期:2015/02/13~2015/02/20

STスポット[神奈川県]

役者が3人。聞いて、記憶して、すべての言葉を抱えて芝居の進行を追いかけるには多すぎる台詞。役者たちは、そんな台詞を口にしていきながら、観客の心に、ペルー、メキシコ、沖縄という街の景色を浮かび上がらせていく。役者たちがある感情を宿したキャラクターに扮し、その感情を闘わせるという(よくある)芝居ならば、理解はしやすい。しかし、神里雄大の書く台詞は、詩のようでもあり、ドラマのナレーションのようでもあり、とはいえそれらのどちらともいえない、語り手の身体的な熱も帯びていて、不思議な角度で観客に迫ってくる。「演劇を通じ、乳首を出した社会を見つめ」など詩のような言葉は、すぐには飲み込めず、だから「乳首」という言葉が異物として浮遊する。それと、場所やものの固有名が目立つ。「那覇」「久高島」「大宜味村」など場所の固有名は、「タブレット」「ダークスーツ」「チェーホフ」「失神」などの名詞とともに混ざりあい、独特の情景をつくり、心を満たす。話の大筋は、神里本人を連想させる主人公が「メキシコ演劇の父」と称された日本人・佐野碩と、夢幻的な仕方で沖縄で出会い、また金融業で財を成した神内良一のエピソードがペルーの地で語られるというもの。この三者の関連は、物語としては掴みにくく、またすべての舞台上の出来事を線で結ぶようなことはできそうにない。その点では難解だろうし、易しい芝居ではない。けれども、ストレートにずしんと言葉が届く感じがあって、この感じは見過ごせない。声を発するひとの言葉のリズム、ろれつに、聞き手として体を委ね、ついていく。ついていけなくなるところもあり、またそれもふくめて、声の主体に触れることを観客は促される。細かい台詞のなかの葛藤や社会や歴史の問題以上に、そのことにこの劇の倫理的側面を感じた。

2015/02/18(水)(木村覚)

國政サトシ「スライドスライド」

会期:2015/02/17~2015/03/01

ギャラリー恵風[京都府]

大量の結束バンドを用いたオブジェ作品で知られる國政が、これまでとは異なるタイプの新作を発表した。それはビニールに染色を施した平面作品だ。作品には図柄の有無などいくつかの系統があるが、その制作法は相当に複雑であり、うろ覚えで説明するとかえって誤解を生じかねない。とにかく仕上がりが美しく、偶然の予期せぬ表情を取り込むこともできる。よくもこんな手法を思いついたものだ。筆者は最近、染色について原稿の依頼を受け、布、紙、皮革以外の新たな染色素材を研究すべきと無責任な提案を行なった。その記憶が冷めやらぬうち実践者が現われたのだから、これは嬉しい驚きだ。

2015/02/19(木)(小吹隆文)

2015年03月01日号の
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