artscapeレビュー
2015年07月15日号のレビュー/プレビュー
蔡國強──火薬ドローイング制作
会期:2015/06/19
横浜美術館[神奈川県]
7月11日から横浜美術館で始まる「蔡國強:帰去来」展に先駆けて、蔡さんの公開制作が行なわれた。といっても画材が火薬なので、厳重な管理のもと限られた人しか立ち会えないクローズドなパフォーマンスなのだ。場所は美術館中央の吹き抜けのグランドギャラリー。オルセー美術館を意識したとおぼしきこの大空間、かねてよりグランドギャラリーとは名ばかりの空間の無駄づかいと感じていたが、今回初めて有効活用できたのではないか。1階の床に養生し、その上に紙や火薬や不燃材を何層にも重ね、その回りを蔡さん以下数十人のスタッフが取り囲んでるが、なかなか始まらない。両側の階段には観客(横浜市、メディア、美術関係者など)が陣取り、2階からは作業服のおっさんたち(消防関係か?)がいまかいまかと見守っている。1時間ほど待たされてようやく蔡さんがチャッカマンで点火! したと思ったらパパパンと一瞬で終了。白煙が立ちこめるなか、上から1枚ずつはがしていくと、爆発跡の黒く焦げた線がミミズクかネコみたいな動物の輪郭として現われた。これはエントランスの正面奥に展示される予定だそうだ。しかし美術館の内部が煙だらけになるというのも、これが最初で最後のことだろう。
2015/06/19(金)(村田真)
オープン・スタジオ2015
会期:2015/06/19~2015/06/28
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
4月から3カ月間、BankARTにスタジオを借りて制作していたアーティストに、長期滞在アーティストを加えた約50組が作品を発表。大半が美術(絵画、彫刻、インスタレーション)だが、写真、演劇、パフォーマンスもあって玉石混淆のにぎやかさ。なかで特筆すべきが水口鉄人だ。彼は以前、広島の野外プロジェクトで、建物の外壁についた汚れを落とすことでウォールドローイングを成立させ、驚かせてくれた。今回はなにをやるのかと思ったら、キャンバスに赤や黄色のテープを貼ってモンドリアン風にしたり、段ボール箱の表面にテープを貼ったりしてるだけ。でもよく見ると、テープと思ったのが絵具を薄く固めたもの。つまりこれ、絵画なのだ。ヘタすればトリックアートとして人気が出ちゃいそう……。
2015/06/19(金)(村田真)
Neustiftgasse 40
[オーストリア、ウィーン]
竣工:1898年/1899年
8年ぶりにウィーンを訪れた。未見だったオットー・ワグナーによるD blergasse-Neustiftgasseのアパートを見学する。ファサードは、彼特有のかわいらしい破線が縁を囲んだり、金属鋲のアクセントが目立つ。古典主義系の隣の建物との連続性に配慮しつつ、表面のグラフィック化を強く志向する建築だ。
2015/06/19(金)(五十嵐太郎)
Wien Die Perle des Reiches - Planen für Hitler
会期:2015/03/19~2015/08/17
ウィーン建築センター[オーストリア、ウィーン]
ミュージアムクォーターにあるウィーン建築センターへ。常設の展示は前と同じである。いつ訪れても、その国の建築の歴史を振り返ることができる展示があるのはうらやましい。日本には、それがないからだ。企画のエリアでは、建築やデザインの比重が高いウィーン・ビエンナーレ2015に合わせたラカトン&ヴァッサルらが参加した都市再開発のコンペを展示している。またドイツ帝国の「真珠」と呼ばれ、ヒトラー統治時のウィーンの建築・都市の企画展も開催していたが、資料も充実していた。この都市では、すでに彼好みの壮麗なリンクの建築群があり、鉤十字や鷹のシンボルを足すだけで風景が変化していたのは興味深い。それに飽き足らず、新規の建築群、交通・都市・住宅計画などさまざまなプロジェクトが動いていた。おそらく建築家にとっても魅力的な大改造だったのだろう。
写真:上から、ウィーン建築センター、ラカトン&ヴァッサルらが参加した都市再開発のコンペ
2015/06/19(金)(五十嵐太郎)
寺田就子「あいまのいろざし」
会期:2015/06/09~2015/06/20
galerie 16[京都府]
コップやハンカチ、スーパーボール、本や文房具といった日常的な素材と、ガラスや鏡、トレーシングペーパーなど透明で儚さを感じさせる素材を組み合わせ、詩的なインスタレーションを展開している寺田就子。光の反射や映り込みといった現象を巧みに利用した作品は、ささやかで親密でありながら、見立てや連想がどこまでも広がっていく小宇宙のような空間をつくり出す。
本個展ではタイトルにあるように、既製品と透明な素材にはさまれた「あいま」にそっと効果的に色を配す手つきが効いている。例えば、《レモネードの波紋》と題されたインスタレーションでは、切断面が蛍光イエローに光るアクリルの集光板を使用。下に敷いたハンカチの縞模様と響き合うように置くことで、ありえないはずの四角い波紋が広がっていくような感覚を与える。また、アクリルボックスの上にレコードを置き、底面に紙ジャケットを置いた作品では、宙に浮いているようなレコードの穴から下を覗くと、組み合わされた曲面鏡と赤いボタンが目玉のようにこちらを見返してくる。水の入ったシリンダーを覗けば、小さな飛行機の影が水面に銀色に光る。天井から吊るされたピンクとグリーンのスーパーボールはいつしか、この空想の小宇宙を照らし出す恒星へと変貌する。
上や斜めから覗き込む、しゃがんで見る、などの具体的な身体動作と、想像の世界でのイメージの変換や連想。その両方の運動を、決して声高でなく誘いかける寺田作品は、子どもの頃の宝物をそっと取り出して眺めるような手つきのなかに、感性をゆるやかに解きほぐす魅力をたたえている。
2015/06/20(土)(高嶋慈)