artscapeレビュー

2015年07月15日号のレビュー/プレビュー

HIROSHI HARA: WALLPAPERS「建築家・原広司による、2500年間の空想的思考をたどる写経」

会期:2015/06/13~2015/07/26

梅田スカイビルタワーイースト5F特設会場[大阪府]

どうしても千葉の湖畔美術館での展覧会は都合がつかず、ようやく大阪は梅田スカイビルの巡回展にて、原広司「WALLPAPERS」を見ることができた。大きな白いキューブ群を会場に並べて、それらの表面に作品写真のほか、彼が重視するテキストの写経ドローイングを貼る。鴨長明、ポアンカレ、荘子、『千夜一夜物語』など、膨大な量の原文を自ら書き写す、驚くべき企画だ。

2015/06/24(水)(五十嵐太郎)

マッドマックス──怒りのデス・ロード

『マッドマックス』の新作を見る。いやはや、ほとんどノンストップで、最初からすべて見所の、ただ行って帰るだけの、これ以上なくシンプルな物語ながら、各キャラの背景も想像させて、呆れるほどにすごい。3Dで見たが、その必要はないだろう。脳内で完全に3D化される。監督が老いてますます若返ったような映画だ。この作品は間違いなく、映画というメディアに固有な面白さを抱えており、近年のCGを過剰に使う流行が馬鹿らしくなる。

2015/06/24(水)(五十嵐太郎)

村上仁一『雲隠れ温泉行』

発行所:roshin books

発行日:2015年6月1日

「雲隠れ」という言葉を辞書で引くと「人が隠れて見えなくなること。行方をくらますこと」とある。失踪、蒸発、遁世、いろいろと言い換えられそうだが、社会的なしがらみから逃れて、どこか見も知らぬ土地を、気の向くままに漂泊してみたいという欲求は、日本人のDNAに刻みつけられているのかもしれない。そしてその欲求にぴったりと応えてくれる場所こそ、地方のひなびた湯治場ということになるのだろう。
村上仁一にも、どうやら20代後半の一時期に「俗世間からの失踪願望」があったようだ。休みを利用して全国各地の温泉をほっつき歩いては「とりとめもなく」写真を撮り続けた。それらは2000年の第16回写真ひとつぼ展でグランプリを受賞し、2007年には第5回ビジュアルアーツフォトアワードを受賞して、写真集『雲隠れ温泉行』(発売=青幻舎)が刊行された。村上はその後、カメラ雑誌の編集者として仕事をするようになるが、「温泉行」のシリーズは撮り続けられ、じわじわと数を増していった。それを再編集してまとめたのが、今回roshin booksから刊行されたニューヴァージョンの『雲隠れ温泉行』である。
白黒のコントラストを強調し、粒子を荒らした画像は、1960年代後半の「アレ・ブレ・ボケ」の時代から受け継がれてきたもので、もはや古典的にすら見える。だが、それが時空を超越したような湯治場の光景にあまりにもぴったりしていることに、あらためて感動を覚えた。村上がここまで徹底して「途方もない憧れの念」を形にしているのを見せられると、単純なアナクロニズムでは片づけられなくなってくる。僕らの世代だけではなく、つげ義春や『プロヴォーク』を知らない世代でも、ざらついた銀粒子に身体的なレベルで反応してしまうのではないかと思えてくるのだ。

2015/06/25(木)(飯沢耕太郎)

金村修「System Crash for Hi-Fi」

会期:2015/06/23~2015/07/04

The White[東京都]

金村修の新作は、あいかわらずのクラッシュした都市光景のモノクロームプリントによる再構築だが、いい意味での開き直りが感じられて、楽しんで展示を見ることができた。
壁に5枚×6段、6枚×7段、8枚×7段で(他にフレーム入りの写真が1枚)、びっしりとモザイク状に貼られたプリントには、暗室作業中のアクシデントの痕がちらばっている。現像液や定着液のムラ、染み、光線漏れなどが原因と思われるこれらの傷跡が、半ば意図的に作られたものであるのは明らかだろう。つまり、被写体となる都市の物質性が、暗室作業を通過することで、印画紙の物質性に置き換えられているわけであり、その手続きは職人技といえそうな巧緻さに到達している。ノイズの取り込み方、活かし方が、視覚的なエンターテインメントとして充分に楽しめるのだ。
それにしても、昨今の若い写真家たちの、デジタル化した都市の表層を「つるつる、ピカピカ」に撮影した写真群と比較すると、金村の展示のあり方はもはやクラシックに見えてくる。だが、それを否定的に捉える必要はないと思う。プリントのそこここから、血液ならぬ現像液が滲み出てくるような金村の写真には、「TOKYO2020」に向かって画一化、パッケージ化を加速させつつある都市の状況に対して、全身で抗う身振りが刻みつけられているからだ。なお、ギャラリーの奥の小部屋では、カラー写真のプロジェクションと動画作品の上映がおこなわれていた。こちらはまだ試作の段階で、発表のスタイルが定まっていない印象だった。

2015/06/25(木)(飯沢耕太郎)

「中村順平と建築芸術教育」展

会期:2015/06/03~2015/08/03

大阪歴史博物館 8階特集展示室[大阪府]

大阪歴史博物館にて、学芸員の酒井一光が企画した「中村順平と建築芸術教育」展を見る。同館は資料を譲り受けたことから、過去にも中村展を開催していたが、ボザール留学中の課題図面、弟子による日本建築の図面、帰国後教鞭を執った横浜高等工業学校(現・横浜国立大学理工学部建築都市・環境系学科)の学校祭に関する図面など、未見のものもいくつか紹介されていた。師匠、弟子ともに、時流とは少し違うデザインの傾向がうかがえる。それにしても、1930年代の学生の図面が美しいこと! 逆にCGでは、つくりにくいような精度である。いまの横浜国大の人は、この展示に来るのだろうか?

2015/06/25(木)(五十嵐太郎)

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