artscapeレビュー

2017年08月01日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:京都銭湯芸術の祭り MOMOTARO 二〇一七

会期:2017/08/13~2017/08/20

梅湯、玉の湯、錦湯、平安湯[京都府]

京都市内の複数の銭湯を会場に、2014年と15年に開催された「京都銭湯芸術祭」。銭湯に美術作品を設置するという異種格闘技戦的な状態をつくり出すことにより、美術とはどういうものか、銭湯とはどういう場所かという根本的な命題に取り組んだ。2年ぶり3回目となる今回は、タイトルを若干改めたほか、パフォーマンス公演「MOMOTARO」を主軸に据えたイベントへとリニューアルしている。「MOMOTARO」は、イラクへ派遣されたスコットランド人兵士たちのインタビューを元に製作されたナショナル・シアター・オブ・スコットランドの演劇作品を、日本の文脈に沿ってアレンジしたもの。会期中に同作の公演が2度行なわれ、ほかには、インスタレーション、美術作品の展示、神輿巡行、自転車ツアー、盆踊りアワー、流しそうめん、ワークショップなどが行なわれる。銭湯とは社会での肩書や地位を脱ぎ捨てて、人間同士の裸の付き合いが行なわれる場所。そこで芸術祭を行なうことにより、芸術表現の新たな可能性を引き出すことがこのイベントの目的であろう。昨年は行なわれなかったのでこのまま自然消滅かと思っていたが、見事な復活を遂げて嬉しい限りだ。

2017/07/20(木)(小吹隆文)

プレビュー:よみがえれ! シーボルトの日本博物館

会期:2017/08/10~2017/10/10

国立民族学博物館[大阪府]

江戸時代後期に来日した、オランダ商館付のドイツ人医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796~1866)。彼は禁制の地図を持ち出そうとした「シーボルト事件」で有名だが、当時の日本の自然や文化にまつわる膨大な資料を残したことでも知られている。本展はそのコレクションのうち、ミュンヘン五大陸博物館とブランデンシュタイン=ツェッペリン家(シーボルトの末裔にあたる)が所蔵する資料を通して、彼が建設を夢見ていた「日本博物館」の再現を試みるものだ。シーボルトの日本コレクションといえば、1996年に国立民族学博物館で行なわれた「シーボルト父子のみた日本」が印象深いが、同展はオランダの博物館(ライデンだったかな?)の所蔵品だったはず。約20年ぶりの大規模なシーボルト展、しかもドイツのコレクションがまとまって来日するとあって、筆者の気持ちは早くも高ぶっている。

2017/07/20(木)(小吹隆文)

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シルヴィアーヌ・パジェス『欲望と誤解の舞踏 フランスが熱狂した日本のアヴァンギャルド』

本書は、フランスが日本のアヴァンギャルドである舞踏をどう受容したのかを解き明かす。1978年、室伏鴻がカルロッタ池田と上演した『最後の楽園』と芦川羊子と田中泯のパフォーマンスによってフランスに「舞踏」が輸入され、引き続いて大野一雄や山海塾などの踊りが紹介されると、フランスにいわば舞踏ブームが起こった。このインパクトが今日の舞踏の世界的な広がりを生み出し、舞踏はもはや日本のものではなく、世界的な前衛芸術となった。本書はそうした舞踏を受容する流れが「誤解」に基づくものであったと説く。著者シルヴィーヌ・パジェスによれば、誤解の最たるものは舞踏を「ヒロシマ」に直結させる類いの言説であり、誤解としての受容の歴史が暴かれてゆく。その点は興味深いのであるが、舞踏とは何かを解く際に、パジェスは土方巽のテキストにほとんど触れない。このことが気になる。実は土方巽の舞踏をめぐるテキストは、サルトルやバタイユなど、フランス現代思想の影響が強く感じられるところがあり、日仏の思想的交流の歴史として語る余地のあるテーマでさえある。その点にパジェスの考察が向かうことはない。とても残念だ。そもそも日本において舞踏を学ぼうとするならば、研究者、批評家であれダンサーであれ、まずは土方のテキストに触れ、あの独特なうねるような文体に舞踏を見るものだ。何より「舞踏とは命がけで突っ立った死体である」というメッセージに、自分なりの解釈を試みずして、舞踏にアクセスできたとは考えないだろう。その点で、日本において舞踏とは、踊りであると同時に土方の思想であり、言語との格闘の成果であった(どの舞踏家も自分の話術あるいは文体をもっているのもその証左といえよう)。そうした点を無視して、土方やその後の世代の言語的取り組みの厚みが「ヒロシマ」というイメージにすり替えられてしまった歴史が、「フランスの舞踏」史ということになるのだろうか。土方巽ら舞踏家のテキストの受容をめぐる考察が読みたかった。あるいはテキストの受容などほとんど起こらなかったのだろうか。巻末の参考文献表をみると、日本語の研究書、論文、批評文は掲載されていない。その無視と一種の驕りが、舞踏を受容する世界的な姿勢であるとするならば、出汁の効いていない蕎麦が「Soba」として異国の日本料理店で振舞われるように、誤解に満ち核心を欠いた「Buto」が、世を席巻することだろう。
ネガティヴなことを書いたが、本書はそもそもフランス舞踊史のなかで、舞踏がどのような影響を与えたのかを伝えるものであった。1980年代当時のフランスで、彼らが否定していた表現主義的で、身振りを重視したモダンダンスの価値を気付かせたのが舞踏だった、とパジェスは理解する。舞踏はかつての「幽霊の美学」を蘇らせた。なるほど、そうした舞踏の読み取りは、単に誤解と切り捨てることのできない、舞踏の潜在力を引き出す解釈と捉えるべきかもしれない。 パジェスはパリ第8大学舞踊学科准教授。本書は著者の博士論文(2009年)をベースにしている。


シルヴィアーヌ・パジェス『欲望と誤解の舞踏 フランスが熱狂した日本のアヴァンギャルド』(パトリック・ドゥヴォス監訳、北原まり子、宮川麻里子訳、慶應義塾大学出版会、2017)
Sylviane Pagès, Le butô en France, malentendus et fascination, Centre national de la danse, 2015

2017/07/25(火)(木村覚)

カタログ&ブックス|2017年8月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

MA VIE A PARIS「私のパリ生活」


著者:ブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット、イヴァン・ペリコリ、ヴィクトール・ルイ
発行:丸善出版
発行日:2017年6月
定価:8,000円(税別)
サイズ:18.2×13.4cm、392ページ

イヴァン・ペリコリ氏とブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット氏が、パリのお薦めの場所を紹介するガイドブックです。鍼灸師や水道管工事、歯医者といった日常生活に役立つ実用的な場所から、レストランやカフェ、ホテルといった観光客も知りたい場所まで、300箇所以上が収められています。アスティエ・ド・ヴィラット独自のセンスで切り取ったパリの日常が垣間見える内容となっています。 背表紙部分以外の本の裁断面全てに金箔が施された“三方金”仕様となっており、フランス語原書同様の活版工法にて印刷されています。 アスティエ・ド・ヴィラットは日本でも人気の高い陶器ブランドで、両氏が1996年に創業しました。2015年にパリ唯一の活版印刷工房を手に入れ、2016年1月に出版社「エディション アスティエ・ド・ヴィラット」を設立しました。最初の出版物として、本書のフランス語版を活版印刷で発行いたしました。



音楽と建築


著者:ヤニス・クセナキス
翻訳:高橋悠治
発行:河出書房新社
発行日:2017年7月26日
定価:2,800円(税別)
サイズ:四六判、184ページ

伝説の名著、ついに新訳で復活。高度な数学的知識を用いて論じられる音楽と建築のテクノロジカルな創造的関係性──コンピュータを用いた現代の表現、そのすべての始原がここに。



図鑑 デザイン全史


監修:柏木博
翻訳:橋本優子、井上雅人、天内大樹
発行:東京書籍
発行日:2017年7月5日
定価:5,800円(税別)
サイズ:30.4×25.8cm、400ページ

決定的図鑑─19世紀から21世紀まで、デザインの流れを一望する初めてのヴィジュアル大図鑑。編年的な構成―アーツ・アンド・クラフツ運動から、アール・ヌーヴォー、アール・デコ、モダニズム、ミッドセンチュリー・モダン、文化革命、ポストモダン、そして現在まで、時代や動向ごとにデザイナーと作品を紹介。ジャンルを網羅―グラフィック、タイポグラフィ、食品、ジュエリー、家具、照明器具、自動車、建築などなど、幅広いデザインのジャンルを豊富な作品写真で丁寧に解説。進化─自転車の進化、カメラの進化、電話機の進化、ギターの進化など、個別のジャンルの変遷が一目でわかる特設ページも多数収録。

[書籍紹介より]



洋裁文化と日本のファッション


著者:井上雅人
発行:青弓社
発行日:2017年6月
サイズ:A5判、272ページ

ファッション史や大衆史からこぼれ落ちる洋裁文化の実態を、デザイナー、ミシン、洋裁学校、スタイルブック、ファッションショーなどの事例から立体的に描き出す。そして戦後の洋裁文化を、「民主化の実践」「消費社会の促進」という視点から再評価する。




フラッター・エコー 音の中に生きる


著者:デイヴィッド・トゥープ
発行:DU BOOKS
発行日:2017年6月
定価:3,000円(税込)
サイズ:四六判、320ページ

ブライアン・イーノらとともにアンビエント・ミュージックのシーンを作りあげ、ヒップホップ、テクノなどの発展にも貢献した、英国のミュージシャン/音楽評論家、デイヴィッド・トゥープが、自身のキャリア、自身の作品、音楽のパートナーについて振り返る、決定的な一冊。トゥープの広範囲にわたる活動記録の集大成であると同時に、英国における、現代音楽〜フリージャズ~テクノ/アンビエントの地下水脈を辿る年代記でもある。




ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見


著者:鈴木一誌
発行:誠文堂新光社
発行日:2017年7月1日
定価:2,500円(税別)
サイズ:四六判、376ページ

生活者そして知識人としてのデザイナー12年間のクロニクル。
長年にわたりブックデザイナーとして活動し、デザイン、写真、映像についての批評でも知られる著者が、2005年から2016年までの12年間にわたって日常や社会の諸相に巡らせた思索の軌跡。『at』『atプラス』『市民の意見』『十勝毎日新聞』という三つの媒体に寄稿した連載エッセイと読書アンケートを中心に収録する。経済や情報のグローバル化を背景に、人々の価値観や公共性の枠組みが大きく変容していった時期に書かれたこれらのエッセイは、出版にかかわるデザイナーならではの同時代批評であり、デザインについて語らないデザイン論でもある。市場経済のデザイン言語から離れ、私たちの足下から立ち上がる思考の地平。



2017/07/31(月)(artscape編集部)

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