artscapeレビュー
2017年09月15日号のレビュー/プレビュー
《山形大学工学部創立100周年記念会館》
[山形県]
山形大学の米沢キャンパスへ。コンペで選ばれた高宮眞介による《山形大学工学部創立100周年記念会館》は、屋外の大階段が旋回し、上部のテラスに接続する構成だ。なるほど、勤務していた谷口吉生的な端正なモダニズムのデザインを継承する。その向かいの旧米沢高等工業学校は、明治の建築であり、熊本大学と同様、よく残っているなあと感心する。現在、公開していないようだが、博物館などに活用できそうだ。谷口関連では、《斎藤茂吉記念館》も訪れた。谷口吉郎らしい和を感じさせるモダニズムの建築だが、これに谷口吉生が増改築を行ない、親子の競作となっている(父は地上の外観、息子は地下の空間)。
写真:上2枚=《山形大学工学部創立100周年記念会館》 中2枚=《旧米沢高等工業学校》 下2枚=《斎藤茂吉記念館》
2017/07/25(火)(五十嵐太郎)
上杉神社
[山形県]
続いて米沢出身の伊東忠太の関わった建築へ。上杉神社の本殿は、大火で焼けた後、彼の設計によって再建したという。隣のRC造の稽照殿に入ると、バッファーなしで、いきなり天井が高い展示空間となる。この空間のプロポーションは外観から決定しているようだ。現在、背後に連結した収蔵庫も展示に使われており、なんとも不思議な空間になっている。山形県の大聖寺の文殊堂も、改築で忠太が関わったらしい。合格祈願で知られ、あちこちにぺたぺたと習字などが公式に張られ、堂後部の壁をほとんど埋め尽くしている! 室内をのぞくと、金色(?)の格天井と赤い斗供がからみあうダイナミックな空間だった。
写真:上=《上杉神社本殿》 左上=《稽照殿》 右下3枚=《大聖寺文殊堂》
2017/07/25(火)(五十嵐太郎)
米沢藩主上杉家墓所
[山形県]
米沢藩主上杉家墓所へ。ずらりと10以上の入母屋の霊廟が、横一列に並ぶ構成は、シンプルだが、見たことがない(ただし、両サイドは宝形造)。ひとつひとつは決して大きくないが、群のつくり方によって強烈なイメージを与える。どこかで見たイメージだと思ったら、3.11の後、宮本佳明が原発神社プロジェクトを説明するときに参照していたからだ。まさにおそるべきものを鎮める聖なる場である。
2017/07/25(火)(五十嵐太郎)
《米沢図書館・よねざわ市民ギャラリー》
[山形県]
山形の米沢市にて、山下設計による《米沢図書館・よねざわ市民ギャラリー》を見学する。道路からはセットバックしたヴォリュームゆえに、あまり大きさを感じないが、内部に入り、階段を上がると、四面の壁が天井まで本棚になった明るい大吹抜け空間が出現する。ここが見せ場である。逆に閉架は、博物館の仕様によって貴重古書を収蔵していた。なお、地上階はフレキシブルに使えるギャラリーとしてフルに活用されている。
2017/07/25(火)(五十嵐太郎)
富谷昌子「帰途」
会期:2017/07/25~2017/08/13
POST[東京都]
富谷昌子の最初の個展「みちくさ」(ツァイト・フォト・サロン)が開催されたのは2010年だった。それから何度かの個展を開催し、写真集『津軽』(HAKKODA、2013)を刊行するなど、順調に歩みを進めている。今回の東京・恵比寿のPOSTでの個展(15点)は、フランスのChose Commune社から同名の写真集が刊行されたのにあわせたものだ。
2014年から撮り始められた「帰途」は、青森の家族(母、妹、その子供)を中心に、彼らの周辺の光景を取り込んで構成されている。「わたしとは何か、この世界とは何か」と問いかけ、写真を撮影し、シリーズとしてまとめることで、「時間も意味もわたしも超えて『わたし』を見つめた物語」を編み上げていくという彼女の意図はきわめて真っ当であり、写真も衒いなくきっちりと写し込まれている。とはいえ、モノクロームの柔らかな調子のプリントには、被写体だけでなく、それらを取り巻く気配のようなものも映り込んでおり、見る者の想像力を大きく膨らませていく。あまりにも正統派の「家族写真」、「故郷写真」といえなくもないが、逆にこのような地に足がついた仕事を積み重ねていくことで、さらにひと回り大きな写真作家としての成長が期待できそうだ。
特筆すべきは写真集の出来栄えである。版元のChose Commune社からは、昨年、植田正治の写真集も刊行されており、日本の写真家たちを丁寧にフォローしていこうという姿勢がはっきりと見える。今回の『帰途』も、淡い色遣いの水彩画を使った表紙、端正な造本やレイアウト、暗部に気配りした印刷など、クオリティの高い写真集に仕上がっていた。
2017/07/26(水)(飯沢耕太郎)