artscapeレビュー

2017年09月15日号のレビュー/プレビュー

《弘前市斎場》《黒石ほるぷ子ども館》

[青森県]

青森の建築家、佐々木弘男の案内でいくつかの建築をまわる。まず弘前でまだ訪れていなかった前川國男の斎場へ。ちょうど使われている最中で、あいにく内部は見学できないタイミングだったが、正面の車寄せから奥に向かって伸びる大屋根をもつ、火葬棟の外観がシンボリックである。内部についてはまた別の機会に。ともあれ、モダニズムの前川建築としては、めずらしく宗教的な象徴性をおびた表情かもしれない。また陸屋根の待合棟とつなぐガラスの渡り廊下と周囲の庭も印象的だった。
続いて、菊竹清訓が設計した《黒石ほるぷ子ども館》へ。これも休日のために、閉館中であり、窓から内部をのぞくことになった。単純な切妻の屋根をもち、ほとんど住宅の規模で小さいけれど、メタボリズム的なシステマチックなデザインを試みた木造建築は好感がもてる。子供図書館ゆえの遊び心のある細部の工夫も効いている。後期の菊竹建築はやや大味という印象だが、これは繊細さが感じられる。また近くに興味深い温泉建築もあった。

写真:左上3枚=《弘前市斎場》 右下3枚=《黒石ほるぷ子ども館》

2017/08/06(日)(五十嵐太郎)

《中山紀念堂》

[中国・広州市]

《中山紀念堂》(1931)は、アメリカで学んだ呂彦直がコンペで勝利し、設計に着手するものの過労で若くして亡くなり、同僚が引き継いで完成させた。近代的な技術(RC造の躯体とS造の屋根架構)によって伝統的な建築様式の外観と大きな空間を実現している。ホールを囲む外周の回廊では、ひたすら建築推しの展示が続く(孫文の説明よりも多くてびっくり)。CGを用いた建設プロセスの紹介なども、よくできており、感心させられた。

2017/08/08(火)(五十嵐太郎)

《広東省博物館》

[中国・広州市]

許李厳が設計した《広東省博物館》は、大劇院の向かいに建つ。キャンチレバーで支えられた巨大な外周部が浮いており、内部に入ると、どでかいキューブ状の吹抜け】に圧倒される。二重のスクリーン越しに、エスカレータを登り、広州の歴史、自然史、美術の常設のほか、貝殻の企画展示(これは貝の造形が楽しめる)などを見ながら降りていく。途中、周囲の風景を見る開口も設けられている。広東省博物館は、タイタニックの特別企画展以外はすべて入場無料だった。ダイナミックな空間構成であると同時に、展示デザインもそれぞれに工夫している。はす向かいの少年宮は、子どもの課外活動施設であり、図書館とともに教育促進の場が集中している。このエリアから天河に向かって、地下は飲食店街のモールが続いていたが、暑い日射しのなかでは納得の空間だった。

2017/08/08(火)(五十嵐太郎)

《広州図書館》

[中国・広州市]

巨大な《広州図書館》は、日建設計が関与したもの。乱石積の湾曲した外観、渓谷を切り裂いたような吹抜け、上部で2棟をつなぐブリッジ群など、思い切り目立つデザインだ。そして人の動きを表出するダイナミックな空間である。各フロアとも熱心に本を読む大勢の人でにぎわう。ただ、図書スペースそのもののデザインは、さほど特筆すべきものではなかったザハ・ハディドによる広州大劇院のホール内は見学できなかったが、ホワイエはガラス空間なので、のぞき込むとある程度、雰囲気はわかる。流動的な造形は彼女ならではだが、施工はかなり粗い。以前、テラーニの建築を見にコモを訪れたら、周囲の集合住宅も高水準のデザインで驚いたが、ここはザハがさほど浮いて見えないくらい、まわりの建築群もど派手だった。

写真:上2枚=《広州図書館》 下4枚=《広州大劇院》

2017/08/08(火)(五十嵐太郎)

中国・広州

[中国・広州]

中国の広州へ。本当は1991年に初訪問の予定だったが、中国を1カ月旅行していたために疲労が蓄積し、上海から直接船で香港に向かってしまい、今回が初めてとなった。おかげで、その後につくられたアイコン建築群や超高層ビルと近代建築が共存する広州を見学できた。まずは現代建築群が林立する珠江新城に向かう。高さ600mの広州タワーの展望台から眼下を見下ろす。バロック的な軸線に貫かれた珠江新城から天河エリア(文化運動施設やビジネス街)の未来的な風景は、もう日本の先にいっていると感じる。なお、タワーはアイコン的な造形ゆえに、おみやげの建築グッズもいろいろ販売していた。

2017/08/08(火)(五十嵐太郎)

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