artscapeレビュー
2018年02月15日号のレビュー/プレビュー
プレビュー:BRDG vol.5「Whole」
会期:2018/03/16~2018/03/18
studio seedbox[京都府]
「BRDG」は、俳優・演出家の山口惠子と舞台制作者の川那辺香乃が2011年に立ち上げたユニット。山口は近年、「京都に住む異邦人」をテーマとし、インタビューを元に演劇作品を制作している。本作は、京都という街の「ローカルな国際性」を演劇化するBRDGのシリーズ第3弾。京都とフィリピンでのリサーチで集めた声と共に、多彩さを増す街の人物像を描くという。それは、国籍や地図上の線といった可視化された/想像上の分断線を融解させていくような作業となるだろう。OHPを用いて、めくるめく光と色彩が織りなすライブドローイングを行なう仙石彬人が手がける美術も注目される。また、会場の「studio seedbox」が位置する東九条が、多文化の共存する地域であることも、本作にとって大きな意味を持つだろう。京都では、昨年に約30年の歴史に幕を下ろしたアトリエ劇研など小劇場閉鎖が相次ぐなか、表現者たちの自主的な活動により、2階建ての元工場をリノベーションする新劇場「Theatre E9 Kyoto」の創設が予定されている。その創設までの空白期間を補うための場としてつくられたのがstudio seedboxである。ここからまた、新たな表現活動が生まれてくることを期待したい。
公式サイト:http://brdg-ing.tumblr.com/
2018/01/31(水)(高嶋慈)
第16回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展 千賀健史展 Suppressed Voice
会期:2018/01/30~2018/02/16
ガーディアン・ガーデン[東京都]
1982年生まれの千賀健史は、第16回「写真1_ WALL」展のグランプリ受賞者である。受賞作は教育問題に直面するインドの若者たちのドキュメンタリーだったが、1年後の今回の展示では、その取材の過程で出会ったひとりの少年にスポットを当てていた。成績優秀で、大学進学を目指していた彼は、ある日突然学校に来なくなった。調べてみると、兄に命じられて学校を辞めて働かざるを得なくなったことがわかった。千賀は母親から聞いた携帯電話の番号を辿って、彼が1500キロ離れた南インドの街で服屋の店員として働いていることを突き止める。今回の展覧会には、その探索のあいだに撮影された写真と映像、少年が学校で使っていたノートのコピーなどが展示されていた。
千賀が取り上げた事例は、児童労働従事者が400万人ともその倍ともいわれるインドでは、よくある出来事である。この「小さな物語」は、だが逆にインドに限らず、過酷な生の条件を背負わざるを得ない少年・少女たちの状況へと見る者を導く普遍性を備えているともいえる。千賀はその出来事を伝えるために、従来のドキュメンタリー写真とはかなり異質の方法を取ろうとした。壁に写真を撒き散らすように並べるインスタレーションも、テキストや映像を一緒に見せるやり方も、ややとっつきにくいものに見えるかもしれない。だが、そんな模索を続けるなかで、多次元的な構造を備えた「ニュー・フォトジャーナリズム」の文法が、少しずつ形をとっていくのではないだろうか。次の展開を充分に期待できる内容の展示だった。
2018/01/31(水)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2018年2月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
石膏デッサンの100年─石膏像から学ぶ美術教育史
美大受験をする者なら誰もが経験する「石膏デッサン」。膨大な時間をかけて修練し、ようやく美大に入ってみ ると、石膏デッサンを否定する教育方針にあぜんとした経験があるはずです。「はたして、石膏デッサンは必要なのか?」。この議論は長く続いていますが、その言説は膠着しています。 本書は、日本の美術が石膏像を受容して以来、美術教育にどのように用いてきたかといった、教育者や作家た ちの苦闘の歴史を捉え直すことで、構築的な美術教育のかたちを目指し、新たな創造への足がかりとします。 日本の美術は、いかに西洋を受容し、近代化してきたのか。その曲がりくねった歴史と、そこに生じた熱量とを、 石膏像を媒体にスリリングに読み解いていく本書。教育者はもちろんのこと、美大受験を控えた受験生、さらに は日々制作と向き合うアーティストに読んでもらいたい書籍です。
紙背 3号
artscapeレビュワーの山﨑健太氏が編集・発行人を務める演劇批評誌の第3号。山本卓卓『その夜と友達』、山田百次『小竹物語』、小田尚稔『悪について』、三浦直之『BGM』といった気鋭の劇作家による戯曲と、それらの作品をめぐる論考を収録。「地点」主宰の三浦基氏によるエッセイ「走り続ける」も必読。
「第20回 DOMANI・明日展 未来を担う美術家たち」カタログ
将来の日本の芸術界を支える人材育成のため、若手芸術家が海外の大学や関係機関などで行なう研修を支援する「新進芸術家海外研修制度」の成果発表のための展覧会「DOMANI・明日展」の展覧会カタログ。雨宮庸介、西尾美也、やんツーなど、出品作家の作品と言葉を全点フルカラーで掲載。展覧会は国立新美術館にて2018年3月4日(日)まで開催中。
安齊重男による日本の70年代美術
1970年、安齊は同世代の作家たちが生み出す一過性の作品を35mmカメラで記録し始めます。後に「もの派」と称される芸術運動体の揺籃期は、安齊の眼を通して知られますが、その眼は直ぐに同時代の他の新しい芸術動向にも向けられました。日本の現代美術の変革期を捉え続けてきた安齊重男の仕事を紹介します。
「縫うこと、着ること、語ること。」日記
KIITOアーティスト・イン・レジデンス2015-2016(招聘作家:長島有里枝)の成果物として、「縫うこと、着ること、語ること。」日記を発行いたしました。
本冊子で初公開となる滞在制作中の日記をはじめとして、成果発表展で発表した作品や展示風景写真も含んだ、96ページの冊子です。
2018/02/14(水)(artscape編集部)