artscapeレビュー
2021年02月01日号のレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス | 2021年2月1日号[テーマ:装幀]
テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、日比谷図書(東京都)で開催中の「複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華~」にちなみ「装幀」。このキーワードに関連する、書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
「装幀」関連書籍 購買冊数トップ10
1位:真鍋博の世界 Hiroshi Manabe Works 1932−2000
その人はイラストの力を信じ、未来を信じた。
イラストレーター・エッセイストとして活躍した真鍋博21世紀初の作品集。初期の油彩から広告・装幀まで……。世紀を越え、後世に残したい作品を多数収録します。谷川俊太郎の寄稿、林明子インタビューも掲載。
愛媛県美術館「没後20年 真鍋博2020」展 公式図録兼書籍
2位:真鍋博の植物園と昆虫記(ちくま文庫)
人気作家作品の装画や装幀の仕事で知られる天才イラストレーターが、社会のあらゆるものを〈植物〉と〈昆虫〉に見立て、ユーモアと風刺を織り込んで描いた40年前の幻の作品集を文庫化。各イラストに簡単な文章も掲載。〔「真鍋博の植物園」(中央公論社 1976年刊)と「真鍋博の昆虫記」(中央公論社 1976年刊)の改題、合本再編集〕
3位:書物の幻影 北見隆装幀画集
赤川次郎、恩田陸、折原一、津原泰水…。多くのミステリー小説や海外文学などの装幀画を手がけ、その物語世界へ、数多の読者をいざなってきた北見隆。40年間に手がけた装幀画から約400点を収録した決定版画集。
4位:ユリイカ 詩と批評 第52巻第16号1月臨時増刊号 総特集◎戸田ツトム
「D-ZONE」の過去・現在・未来
戸田ツトムの装幀を手にすることは歓びであり、「たのしい知識」に導く書物の薫香であった。戸田ツトムの仕事とはなんだったのか。工作舎に始まり、天井桟敷を経て、人文書の一時代を作りながら、週刊誌を手がけ、DTPの黎明期に帆走したそのデザインはどこに行き着いたのか、『D-ZONE』のあとに、追悼特集。
5位:青山二郎 物は一眼人は一口(ミネルヴァ日本評伝選)
青山二郎(1901年から1979年)古陶磁鑑賞家・装幀家・文筆家。
十代から毎月小遣い500円(時価125万円)を貰い、骨董を買い漁り、飲む打つ買うの放蕩に耽った。そして、柳宗悦との民芸運動、北大路魯山人との出会い。「青山学院」の校長として小林秀雄、白洲正子、河上徹太郎、中原中也などの面々との交流。この交流は、美を追い求めた求道者としての生涯にいかにかかわったのか、その全貌に迫る。
6位:意匠の天才小村雪岱(とんぼの本)
江戸の情緒を描きつつ、驚くほどモダン。こんなデザイナーがいたなんて! 大正~昭和初期にかけて、多彩な分野で活躍した意匠家セッタイ。彼が手がけた華麗な装幀本ほか、挿絵、舞台美術、日本画など全151点を、一挙掲載! 繊細かつ大胆な独自のデザイン感覚で、泉鏡花などの文学者にも愛された天才の全貌に迫ります。 貴重資料や味わい深い名随筆も特別収録、ファン待望の1冊。
7位:2色デザイン デュオトーンのミニマムカラー・リファレンス
グラフィックデザインにおける2色の可能性と、その活用を紹介。ロゴ、パンフレット、ポスター、パッケージ、書籍装幀、企業PR関連など、さまざまなカテゴリーの作例を多数収録し、ヒントとアイデアを提供する。
8位:吉田謙吉と12坪の家 劇的空間の秘密(LIXIL BOOKLET)
舞台美術をはじめ、装幀、文筆業など多ジャンルで活躍した吉田謙吉。彼が52歳で建てた“12坪の家”を軸に、その家に至るまでの活動の数々を辿りつつ、吉田謙吉という人の、劇的な空間作りを紐解く。折り込みページあり。
9位:小村雪岱挿繪集
数多くの物語に生命を吹き込んだ、その描線
大正から昭和初期にかけて活躍した装幀家、挿絵画家、舞台装置家の雑誌、新聞の挿絵を集成。
◎350点以上の挿絵を媒体(雑誌・新聞)別に収録。
◎初公開!〈雪岱調〉成熟期の挿絵原画「両国梶之助」(鈴木彦次郎「都新聞」昭和13~14年)も!
10位:ディック・ブルーナのデザイン(とんぼの本)
世界一有名なうさぎ「ミッフィー」の生みの親であるブルーナ。絵本の仕事はもちろん、装幀デザイナーとしても活躍していたほか、ポスターや食品パッケージまでデザインしている彼の素顔を、作品やインタビューを交えて紹介。
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artscape編集部のランキング解説
大正から昭和初期にかけ、泉鏡花の著作をはじめ書籍の装幀を数多く手掛けた小村雪岱(1887-1940)。日本画をルーツとした美麗な図版とその斬新な使い方、そして静謐で詩情溢れる佇まいを本に与えるその感性と技術から、日本の書籍の装幀史を語るうえでも避けて通れない人物です。
今回は紙の本とは切っても切り離せない「装幀」というキーワードでランキングを抽出してみました。やはりここにも小村雪岱に関する書籍が複数ランクイン(6位、9位)。日比谷図書文化館で現在開催中(2021年3月23日まで)の展示「複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華~」をはじめ雪岱にまつわる展覧会が開催されるたびに、彼の100年ほど前とは思えないモダンな仕事は多くの人々を魅了しています。9位の『小村雪岱挿繪集』は装幀家としてまず語られがちな雪岱の挿絵画家としての仕事にクローズアップした一冊で、そこでも情景や空気感を伝える一貫した美学が感じられるはず。
一方で1位、2位を独占していたのが真鍋博(1932-2000)に関する本。星新一や筒井康隆などのSF作品での仕事をはじめ、未来の都市風景を数多く描いたイラストレーターで、そのサイケデリックともいえる色彩を生かした装幀の仕事も多数残しています。昨年没後20周年を迎えたタイミングで大規模な回顧展が開催され、再びその仕事が注目されていることがわかります。
現代を代表する装幀家/グラフィックデザイナーのひとりで、昨年7月にその生涯を閉じた戸田ツトム(1951-2020)の追悼特集を組んだ『ユリイカ』も4位に。近年まで彼の仕事を書店の新刊の平台で見かけない日はないというほど膨大な数の書籍や雑誌を手掛けた戸田ですが、この特集は生前に親交のあった人々からの寄稿を中心に構成されており、戸田が若年期に所属していた工作舎や独立後のエピソードが多数語られています。戸田の人物像と並行して浮かび上がってくるのが、写真植字からDTP(デスクトップパブリッシング)へと移行する、本を形づくる技術の過渡期の空気感。いまとなってはPCを用いたデザイン作業は当たり前になっていますが、それらが普及する前の手技を使ったさまざまな仕事の描写に、デザイナーの職能についても改めて考えさせられます。
出版不況がここ10年以上叫ばれるなかで、紙の本のモノとしての佇まいを決定づける装幀デザインの仕事や、印刷・加工技術の発展に熱い視線が注がれている昨今。あなたの身の回りの本も「装幀」という切り口で見つめ直してみると、その本の新たな解釈が垣間見られるはずです。
2021/02/01(月)(artscape編集部)
プレビュー:東日本大震災と向き合う舞台作品4本──『福島三部作』『消しゴム山』『光のない。─エピローグ?』『是でいいのだ』
会期:2021/02~2021/03
[神奈川県/東京都]
東日本大震災から10年。関連する舞台作品が相次いで上演される。
TPAM2021でTPAMディレクションとして上演されるDULL-COLORED POP『福島三部作』(作・演出:谷賢一)は2018年に第一部が先行上演され、2019年に三部作として初演、2020年には第二部が第23回鶴屋南北戯曲賞を、三部作として第64回岸田國士戯曲賞を受賞した作品。福島県双葉町を舞台に住民たちが原発誘致を決定するまでを描く第一部『1961年:夜に昇る太陽』、かつて原発反対派だった男が賛成派として町長となり、そしてチェルノブイリの原発事故に直面する第二部『1986年:メビウスの輪』、被災者への取材で語られる無数の言葉とテレビスタッフの葛藤が観客をも揺さぶる第三部『2011年:語られたがる言葉たち』。三つの時代、半世紀にわたる物語はひとつの視点からの断罪を許さない。科学技術への期待と人間の欲望、職業倫理とひとりの人間としての意志、積み上げてきた時間と来るべき未来。善悪では割り切れない人間の葛藤がそこにはある。
『福島三部作』は2月12日から14日、KAAT神奈川芸術劇場で上演。劇場上演に先がけて9日から12日にはオンライン配信も予定されている。膨大な注釈が付された『戯曲 福島三部作』(而立書房)も併せて読みたい。
同じTPAMのフリンジプログラムではチェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』が上演される。『消しゴム山』は、作・演出の岡田利規が岩手県陸前高田市で津波被害を防ぐための高台の造成工事によって人工的に造りかえられていく風景を目撃したことをきっかけに構想されたのだという。津波という自然災害で壊滅した街並みと、人間の都合で書き換えられる風景。岡田は『現在地』(2012年初演)、『地面と床』(2013年初演)、『部屋に流れる時間の旅』(2016年初演)と東日本大震災をきっかけに顕在化した価値観の相違や対立を描いてきた。『消しゴム山』はさらに、人間中心の世界観の外側へと目を向けようとする。瓦礫の山にも似た舞台美術は美術家・金氏徹平の手によるもの。モノに埋もれ、なかばそれらと一体になりながらそこに立つ俳優の姿は、不可解なこの世界に生きるしかない私の似姿かもしれない。あうるすぽっとで2月11日から14日まで。ライブ配信とアーカイブ配信も予定されている。
シアターコモンズ'21では高山明/Port B『光のない。─エピローグ?』が上演される。今回の上演はフェスティバル/トーキョー12でPort B『光のないⅡ』として上演された作品のリクリエーション。高山はオーストリアのノーベル賞作家エルフリーデ・イェリネクが東日本大震災と福島第一原発事故への応答として発表した『光のない。』の続編として執筆した戯曲(白水社から刊行されている戯曲集『光のない。』[林立騎訳]には「エピローグ?[光のないⅡ]」として収録)を、東京電力本社ビルの立つ新橋駅周辺を舞台とするツアーパフォーマンスとして構成した。スタート地点は福島第一原子力発電所と同じ1971年に開業したニュー新橋ビル。12枚のポストカードとラジオを手に新橋駅周辺を巡る観客は、新橋と福島との距離に対峙することになる。今回のリクリエーションは10年という「距離」とも否応なく向き合うものになるだろう。
「距離」というテーマはVR作品や鍼を用いたセラピーパフォーマンスなど、シアターコモンズ'21のほかのプログラムとも共振する。フェスティバル/トーキョー12当時の、そして現在はシアターコモンズのディレクターである相馬千秋によるキュレーション・コンセプト「孵化/潜伏するからだ」は観客に個々のプログラムを超えた更なる思考を促すものだ。シアターコモンズ'21は2月11日から3月11日まで開催。高山明/Port B『光のない。—エピローグ?』 は3月4日から3月11日まで。すでに満席となっているようだが増席の可能性も検討されているとのこと。
3月11日から15日にかけては三鷹SCOOLで小田尚稔の演劇『是でいいのだ』が上演される。『是でいいのだ』は2016年初演、2018年以降は毎年3月に再演されている小田の代表作。東京で被災したと思われる5人の登場人物が自らの体験をときに自虐的なユーモアを交えながら淡々と語る。劇的なことは起こらない。「自らの人生の境遇や環境を受け入れて前に進むこと」を描いたというこの作品はしかし、等身大であるからこそ観客に10年前の自身の体験を思い出させ、現在の自らを省みる契機となり得る。
それぞれに異なるやり方で東日本大震災や福島第一原発事故と向き合う四つの作品。いずれも再演だが、そこに舞台芸術のひとつの意義がある。作品に刻印された初演当時の記憶。時を経て作品と向き合う自分の、社会の変化。あるいは作品自体の変化。繰り返し上演される舞台芸術は、そのたびにつくり手と観客の現在地を問い続ける。
DULL-COLORED POP『福島三部作』:https://www.tpam.or.jp/program/2021/?filter=.tag--fukushima-trilogy
チェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』:https://www.tpam.or.jp/program/2021/?program=53
高山明/Port B『光のない。─エピローグ?』:https://theatercommons.tokyo/program/akira_takayama/
小田尚稔の演劇『是でいいのだ』:http://odanaotoshi.blogspot.com/2021/01/20213.html
関連レビュー
小田尚稔の演劇『是でいいのだ』/小田尚稔「是でいいのだ」|山﨑健太:フォーカス(2020年04月15日号)
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2021/02/01(月)(山﨑健太)