artscapeレビュー

2010年03月01日号のレビュー/プレビュー

泉太郎「クジラのはらわた袋に隠れろ、ネズミ」

会期:2010/01/16~2010/01/31

アサヒ・アートスクエア 4F/5f[東京都]

泉太郎の快進撃が止まらない。昨年後半の野毛山動物園、神奈川県民ホールギャラリーに続き、今回はアサヒ・アートスクエアの巨大な空間を存分に使い倒したインスタレーションや映像作品などを発表し、また会期中に滞在制作によって作品を変化させ続けた。高さ6mを誇る空間を占めるのは、大量の角材を組み合わせた「すごろく」。升目に描かれた指示に従いながらコマを進めていくゲーム性の高い作品である。昨年夏に、群馬県立近代美術館で粗っぽく蒔かれた種が、野毛山動物園で見事に発芽し、ここ浅草で一気に花開いたというわけだ。ただ、大きく成長したのは作品だけではない。泉太郎本人も、自分自身を新たなステージに押し上げようとしているように思われた。「日常/場違い」展の《さわれないやまびこのながめ》が市民の声やボランティア諸君の手を全面的に取り入れた作品だったように、今回のすごろく作品もまた、観客参加型の要素を前面化しているからだ。泉太郎といえば、孤独な一人遊びを次々と繰り広げていくのが最大の特徴だが、今回の展覧会ではむしろそれはあまり目立たない。いや、正確にいえば、泉太郎が興味の対象を一人遊びから観客参加型のアート作品へと切り換えたのではなく、観客を吸い込んでしまうほど一人遊びの磁力がますます強大になりつつあるということではないだろうか。これまでの孤独な一人遊びという段階から、共同的な一人遊びともいうべき新たな段階への進化。そのうち世界の隅々まで「すごろく」の升目を延ばしていくのではないかという妄想を抱かせるという点でいえば、泉太郎の作品は、たとえば淺井裕介や遠藤一郎の精力的かつ魅力的な活動と相通じるものがある。テン年代のアートを動かしていく大きな潮流は、すでに生まれている。

2010/01/31(日)(福住廉)

中田有香 展 うすごおり PATTERN3

会期:2010/02/03~2010/02/14

iTohen[大阪府]

植物の枝、葉、花びら、実などを素材にして、平面作品やオブジェを制作する中田有香。通常こうした素材を扱う作家はネイチャー指向に走りがちだが、彼女の場合、むしろグラフィカルな素養が前面に出てくるのがユニークだ。珍しいタイプの作家なので、この路線のまま突き進んでほしい。前回の個展で彼女と話した際、仕上げがやや雑だと指摘したのだが、本人が未だにその言葉を気にしていることが判明。あらら、悪いこと言っちゃったかな。言葉にはもっと注意を払わねば。

2010/02/03(水)(小吹隆文)

高須健市 surface

会期:2010/02/02~2010/02/14

neutron-kyoto[京都府]

展示室の壁面いっぱいに、村上隆とのコラボで知られる某高級ブランドのモノグラムが貼り付けられていた。そして床には大量の紙屑が。漫画や雑誌の断片、折り込みチラシの類だ。それらはいずれも切り抜かれており、モノグラムの素材だということがわかる。たとえ素材が紙くずでも、高級ブランドのシンボルは揺るがないということか。いや逆に、ブランド信仰の虚構性を揶揄しているとも取れる。どう受けとめるかは見るもの次第だが、展示が鮮やかに決まっていたことだけは確かだ。

2010/02/05(金)(小吹隆文)

公募京都芸術センター2010

会期:2010/02/05~2010/02/24

京都芸術センター[京都府]

南北二つのギャラリーでの展示プランを募集した本展。今回は映画監督の河瀬直美を審査員に迎え、126件の応募の中から寺島みどりと森川穣のプランが採用された。北ギャラリーを使用した寺島は、空間全体をキャンバスに見立てて巨大な壁画の公開制作を実施。絵ができあがる過程自体を表現として提示した。寺島は直感や身体性を重視するタイプ。幾層も色を塗り重ねながら落とし所を見つけ出すので、公開制作向きの作家と言える。一方、南ギャラリーの森川は、館の床下から掘り出した土や遺棄物を細長いスリット越しに見せるインスタレーションを発表した。ちょうど虫の目線で京都芸術センターのもうひとつの姿を覗き見るような作品で、部屋の壁に一筋の線が引かれただけに見えるミニマルな空間構成もスタイリッシュだった。動と静、二つの対比が際立つ今回の展覧会。河瀬監督の狙いもその辺りにあったのだろう。

2010/02/05(金)(小吹隆文)

ロバート・プラット“TALES FROM THE LIMEN”

会期:2010/02/05~2010/02/28

eN arts[京都府]

ロバート・プラットは森と狩人を軸に、自然と文明の対比や、見つめる側と見つめられる側の関係などを織り込んだ絵画作品を発表している。まるで織物のような細かなテクスチャーが特徴で、そのなかにデジタル画像のバグを思わせるスペクトルのような色帯も混入されている。近年は壁面にヨーロッパ中世の古書から引用した挿絵の一部を描くようになり、作品の構造が一層複雑化しているようだ。私はまだ彼の作品をつかめたとは言い難い状態なのだが、その多面性はやはり魅力的で、何とか自分流の解釈を見つけたいと思っていた。ところが、彼は留学先の京都市立芸大で無事博士号を取得できたため、春には英国に戻るという。じっくり付き合いたい作家だったのでとても残念。帰国しても機会を作って、日本での発表を続けてほしいものだ。

2010/02/05(金)(小吹隆文)

2010年03月01日号の
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