artscapeレビュー
2010年03月01日号のレビュー/プレビュー
向井智香 個展 the Atonement
会期:2010/02/08~2010/02/13
ぎゃらりかのこ[大阪府]
花束で磔刑図をつくり、それらが枯れて行く過程を記録したスチール写真(約3週間分、約7,000枚)を、早送りでスライドショー上映していた。私が最も驚いたのは上映機材。てっきり薄型テレビの縦起きだと思い込んでいたが、実は手作りの箱で、映像も外側から投影していた。本人いわく「大画面の薄型テレビは高価で買えなかったので、安価で効果的な方法を模索した」とのこと。会場が暗室だったので助けられた側面もあるが、それを割り引いてもほめられるべき上手な展示だった。
2010/02/10(水)(小吹隆文)
フォースド・エンタテイメント『視覚は死にゆく者がはじめに失うであろう感覚』
会期:2010/02/10~2010/02/12
VACANT[東京都]
タイトルのような定義(これは劇の最後の一言となる)がひたすらつぶやかれ続ける。哲学的だったりもするし、きわめてどうでもいい常識とも言い難い語彙説明だったりもする。男が1人。ときどき水を飲んではつぶやきを再開する。1時間。この男は役者だろうけど役柄はまったく不明で、そもそもなんのために定義が語られているのかわからない。宇宙の使者?なんて憶測もあやふや。それがなんで退屈でないのか、いやむしろはっきりと見応えのある時間だったといえるのかは、答えるのがとても難しい。男が語るのを聞く。この最小限の演劇の状態しか設えられていなくとも、だからこそ感じられるものがある。波紋のように言葉が聞き手に広がり、想像力が刺激される。役者のちょっとした仕草から見る者は沢山のありうる解釈を展開させられる。いや、これはいわゆる「演劇」だけに特化すべき「状態」ではなかろう。ブログ、mixi、twitterのつぶやきと向き合う感覚にとても近い。むしろ、そうしたメディアに演劇的ななにかがあることを認識させる作品だったのかもしれない。
2010/02/11(木・祝)(木村覚)
井上廣子 展 Inside-Out むこう側の光
会期:2010/02/10~2010/02/21
ギャラリーヒルゲート[京都府]
欧米と日本の精神病院を取材した写真シリーズ。展示には床置きのライトボックスを使用し、裏側から光を当てるスタイルが採られた。写っているのは病室の様子で、人間は写っていない。作家が在廊していたので説明を聞いた。欧米、特にイタリアでは精神病院を減らす方向にあり、患者も一般病院に通院・入院させる流れになっているらしい。また、投薬量も日本に比べると大変少ないとも。国ごとに事情があるのでその是非は判断しかねるが、ジャーナリスティックな視点に基づく骨太な写真表現を久々に見たように思う。また、彼女が在住するドイツの美術業界事情にも話題が及んだ。さしものドイツも不況の影響で予算を削減せざるを得ず、アーティストの待遇や企画展の頻度が減っているらしい。どこも大変なんだなと、改めて実感した。
2010/02/11(木)(小吹隆文)
柴田祐輔 仮定ビート
会期:2010/02/03~2010/02/14
Art Center Ongoing[東京都]
「5th Dimension」展に参加していた柴田祐輔の個展。Ongoingの道路に面した外ガラスに「Yシャツ95円」などのクリーニング店のポップ広告を、2階の窓ガラスには「エステシルク」という怪しげな文字を、それぞれ貼りつけた。センスゼロの蛍光色がなんともキッチュでけばけばしい印象を強くしているが、展示の内容はじつにミニマル。家電量販店などで多用されている冷たい照明のもと、高級感を装ったフェイクで覆われた建物の外壁を打ち立て、その前で暗闇のなかで瞬く光の写真などを発表した。現実的な実在よりも、それらとは無関係なイメージに強いリアリティを感じるシミュラークルがモチーフとなっているようにも見えるが、そこには記号の戯れを嘯く虚勢もニヒリズムも見られない。ただ、冷たい光がのっぺりとした世界をひたすら照らし続けている。言葉のほんとうの意味で、フラットな世界を見せようとしていたようだ。奥行きもなければ、影もない、ほんとうの平面世界。照明を反射する黒いヘルメットと、暗闇の中で白く輝く光は、どこかで反転しながら通じ合っているようにも見えたが、そのようにして「深読み」することそのものが、深さを欠いた平面に安心できない私たちの弱点なのかもしれない。キッチュな装いとは裏腹に、おそろしい作品である。
2010/02/12(金)(福住廉)
京都オープンスタジオ2010
会期:2010/02/12~2010/02/14
AAS、桂スタジオ、うんとこスタジオ、豆ハウス、ライトスタジオ、兼文堂スタジオ、[京都府]
※上記は全会場がオープンしていた期間。会場ごとに会期は異なる。
京都市内に点在する8つの共同スタジオが、一斉にオープンスタジオを開催。昨年も「4つのアトリエ」と題した同種のイベントが行なわれたが、今年は参加スタジオ数が倍増。作家数も30組以上と増加した。スタジオの展示には不備もあるが、それ以上に生々しさが伝わってくるのが興味深い。例えば「桂スタジオ」の風能奈々は、普段は見せないメモ帳のスケッチを展示したり、試行錯誤段階の陶芸作品を出品した。「AAS」の田中英行は過去の作品と新作を同時に出品し、旧作を破壊するパフォーマンスを行なった。「豆ハウス」の芳木麻里絵は自身の版画作品と同じ手法で砂糖菓子を作り、一部の観客にふるまった。また、スタジオの設えもそれぞれが個性的で、美術作品が生まれる現場の息吹きが直接肌に感じられた。今回の参加メンバーは京都市立芸術大学出身の30歳前後が主体だったが、京都は美大が数多くあるので、同様のスタジオはもっとあるはず。同様の動きが広がれば、京都アート界の一大潮流に発展するかもしれない。来年の2月はどんな状況になるのか、今から楽しみだ。
2010/02/14(日)(小吹隆文)