artscapeレビュー
2010年03月01日号のレビュー/プレビュー
堀川紀夫 展
会期:2010/02/08~2010/02/20
ギャラリー檜A[東京都]
新潟の前衛芸術集団「GUN」のメンバーだった堀川紀夫による個展。鮮やかな青を下地にして、抽象的な文様が無限に反復する平面作品などを発表した。「GUN」といえば、1970年、広大な雪原に農薬散布のための機械で絵具をぶちまけた「雪のイメージを変えるイベント」が知られているが、今回の平面作品も距離感を失いながら雪や氷の内側に深く入り込んでいくような感覚が強く打ち出されていた。そうしたなか、同じパターンを踏まえながらも、一点だけ赤い作品が展示されていたが、ここに厳しい条件に拘束された状況を突き抜ける突破口が仮託されているように見えた。
2010/02/18(木)(福住廉)
新宮さやか展─陶 黒い蝕花─
会期:2010/02/05~2010/03/02
INAXガレリアセラミカ[東京都]
陶芸作家、新宮さやかの個展。植物の種や花びらを抱えるほど大きなサイズで制作した「枯れた時間の蝕」シリーズを発表した。特徴的なのは、おしべとめしべの一本一本を忠実に再現した繊細な造形と、炭のように真っ黒な色合いによる暗い迫力。過剰に装飾的になりすぎることもなく、かといって物質的な存在感に居直るわけでもなく、ひじょうに奇妙な物体をつくりだしている。その違和感は、「生命」の誕生や輝きを象徴する種子や花弁が「死」と直結した焼け焦げた黒によって表現されるという落差に由来しているのかもしれない。陶芸にとって本質的な「焼く」という行為。ほとんどの場合、それは作品の後景に隠されているが、新宮の場合は、むしろそれを自己言及的に前面化することによって、陶芸が内側に抱える「死」をよりいっそう強調しながら引き出している。
2010/02/18(木)(福住廉)
小泉明郎 展「A LOVE SUPREME 至上の愛」
会期:2010/02/12~2010/02/28
ギャラリーRAKU[京都府]
小泉明郎はイギリスの美術大学で学び、日本と欧米で映像やパフォーマンス作品を発表しているそうだ。関西では恐らく今回が初個展ではないか。恥ずかしながら私は彼の存在を知らなかった。展示のメインは、初日夜に行われたパフォーマンス《男たちのメロドラマ#3》の映像と舞台装置のインスタレーションで、別室では過去の3作品も上映された。同作品はは三島由紀夫の『金閣寺』を題材にしたものだが、小説の主人公というより三島自身をモデルにしたと思しき登場人物が、切腹すると思いきやマスターベーションを始めたのには驚かされた。濃密な暴力性にたじろぐとともに、右寄りの人たちに見つかったらえらい目に遭うんじゃないかと心配になった。旧作も人の神経を逆なでするまがまがしさが充満しており、《僕の声は、きっとあなたに届いている》は、青年が携帯電話で母を温泉旅行に誘う情景と思いきや、実は企業のカスタマーサポートに向かって一方的に喋っているという不条理なものだった。また《ヒューマン・オペラXXX》は、ある人物から深刻な体験を聞き出すインタビューだが、取材の過程で相手の顔に落書きしたり、訳のわからない道具を持たせたりして徹底的におちょくるというもの。正直見ていて不愉快になったが、その一方で日本人アーティストでここまでニヒルな作風を通す人は珍しいのではないかと感心もした。決して好きとは言い難いのだが、見る者の心にトラウマのような傷を刻む強烈な作品であることは間違いない。
2010/02/19(金)(小吹隆文)
北尾博史 森の部品 元土御門の森
弘道館[京都府]
会期:2010/01/24~2010/01/25、2010/02/11~2010/02/21
瀟洒な住宅が点在する京都御所西側の一角に、「弘道館」という古い邸宅が存在する。見事な建築と苔庭からなり、江戸時代中期には学者の皆川淇園が学問所を開いていたという由緒ある場所だ(ただし、現在の建物は近代以降に建てられた別物)。今は老舗和菓子店「老松」が所有している。同館の新たな活用法として美術展が催された。北尾博司の彫刻が室内外に配置され、同時に同館ゆかりの器や掛軸、屏風なども展示。そして「老松」の菓子職人たちが、展示からインスピレーションを得た創作和菓子を添えている。会期中には茶会も催されたとのこと。なんとも贅沢な、京都でしかあり得ない展覧会。至福の空間に包まれて、しばしの間、時が経つのを忘れた。
2010/02/19(金)(小吹隆文)
プレビュー:かなもりゆうこ展 物語─トショモノ
会期:2010/03/08~2010/03/27
ギャラリーほそかわ[大阪府]
映像、言葉、オブジェ、ダンスなどさまざまなメディアを駆使して、日常と非日常の狭間にある繊細な世界を紡ぎ出すかなもりゆうこ。新作のインスタレーションは書物と書物を愛する人へのオマージュになるらしい。会場の画廊では、2月初旬からじっくり時間をかけて撮影や設営が行なわれてきた。その出来栄えに今から期待が募る。
2010/02/20(土)(小吹隆文)