artscapeレビュー
Chim↑Pom展 「REAL TIMES」
2011年07月01日号
会期:2011/05/20~2011/05/25
無人島プロダクション[東京都]
今回の個展でChim↑Pomは大きな達成を成し遂げたように思う。このたびの東日本大震災にアーティストとしていちはやく反応して個展を実現させたからではない。そこで発表された作品に、これまで社会的・政治的な問題に果敢に取り組んできた彼らの表現活動がある一定の成熟を迎えたことが明らかに伺えたからだ。たとえば《気合い100連発》。被災地でボランティア活動に従事するなかで知り合った現地の若者たちとともに円陣を組み、さまざまなメッセージをひとりずつ大声で連呼してゆく映像作品だが、あくまでも明るく元気でノリのよい雰囲気はこれまでのChim↑Pomと同様でありながら、これが瓦礫の山に漁船が転がる荒涼とした光景のなかで繰り広げられることによって、その裏面がこれまで以上に浮き彫りになっていた。「放射能最高!」という言葉と「放射能最高なんかじゃないぞ!」という言葉のあいだには、心の底にたちこめた哀しみを乗り越えることを願う、Chim↑Pomならではの「溌剌とした祈り」が垣間見えた。こうした作品には、突発的に生じた悲劇的な出来事を作品の主題として貪欲に回収しただけだという批判が想定されるが、本展で発表された作品は明らかにChim↑Pomがかねてから持続的に追究してきた問題の延長線上にある。被爆者団体の代表である坪井直氏の題字を被災地で拾った額縁に収めた《Never Give Up》は一連の「ピカッ騒動」を、福島第一原発近辺の植物を除染したうえで生け花とした《被曝花ハーモニー》は《クルクルパーティー》や《SHOW CAKE XXXX!!》を、意味的にも形式的にも引き継いだうえでそれぞれ発展させていることがわかる。なかでも、もっとも鮮やかに展開したのが、《Without Say Good Bye》だ。福島第一原発にもっとも近い農地に案山子を設置しにゆく、この映像作品の源にあるのは、《BLACK OF DEATH》だろう。双方はともに「自然」を相手にした映像作品という共通点があるが、後者がカラスの大群とともに街を疾走するのに対し、前者はそのカラスから畑を守る案山子を抱えながら道を歩き続けるという違いがある。後者がけたたましい鳴き声で満ち溢れていた反面、前者はほとんど乾いた足跡と息づかいしか聴こえないほど静寂に支配されている。この動から静への転換が、放射能汚染というかたちで自然から拒絶されてしまった、いやより正確に言い換えれば、私たち自身が自然を退けてしまったことに由来していることは間違いない。《Without Say Good Bye》は、3.11以後の日本社会を象徴する新しい記念碑である。新しいというのは、それを直接見に行くことができず、できるのは放射能から畑を守る案山子がいったい何を見ているのかを想像することだけだからだ。イマジネーションをたくましく鍛え上げなければ、いよいよ生き抜いていけない時代に入ったのだ。
2011/05/25(水)(福住廉)