artscapeレビュー

100,000年後の安全

2011年07月01日号

会期:2011/04/02

渋谷アップリンク[東京都]

放射性廃棄物をどのように処分するのか。原子力発電に依存する現代社会がいままさに直面している、この宿命的な問題について、フィンランドの事例から考えさせるドキュメンタリー映画。ほとんど地下都市といってよいほど巨大な地層処分施設に高レベルの放射性廃棄物を次々と埋蔵してゆき、一定の容量に達すると永久に封鎖するという計画の全体像を、じっさいの施設の様子と関係者の証言によって浮き彫りにした。機械的で人工的な映像美が放射性廃棄物の非人間的な一面を象徴していたが、それより際立っていたのは、それらが安全に保全されるために必要な10万年という時間についてあれこれ思考する専門家たちの想像力のありようだ。絶対的な危険に近寄らせないためには、将来の人類にどのような手段で伝えるべきなのか。言語なのかイラストなのか。いや、伝えるというより、むしろその存在じたいを完全に封印してしまうべきなのか。そのとき人類は地球上に生存しているのか。人類の文明社会の歴史をはるかに凌ぐほどの途方もないスケールで安全性について検討する専門的な想像力は、逡巡やためらいを露にすることも含めて、たしかに傾聴に値する。しかしその一方で、それが人類の生存の根幹を明らかに脅かす「負の遺産」であることを思えば、そもそも放射性廃棄物を後世に残すことのない世界を想像する必要があるのではないかと思えてならない。容易には解決し難い難問を、空間的には「地下」や「地方」へ押しつけ、時間的には「未来」へ先送りしたうえで成立する都市文明とはいったい何なのか? 豊かな想像力は、「正の遺産」を構想することに駆使したい。

2011/05/25(水)(福住廉)

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