2018年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

植田正治「童暦・砂丘劇場」

2012年07月15日号

会期:2012/06/05~2012/07/01

JCII PHOTO SALON[東京都]

植田正治が1971年に刊行した写真集『童暦』(中央公論社)は、僕にとっても忘れがたい写真集だ。当時『カメラ毎日』の編集部員だった山岸章二が企画・編集した「映像の現代」シリーズの第3巻として刊行されたこの写真集は、山陰地方を拠点に活動する「地方作家」であった植田の名前を、一躍全国に知らしめるものとなった。僕自身もこの写真集で彼の写真の面白さに開眼したひとりであり、何度見直しても驚きと感動を覚える。山陰の風土とそこに生きる人々の姿を、四季を通じて撮影したドキュメンタリーとしてももちろん優れた成果なのだが、それ以上に小さな子どもたちの存在のはかなさと輝きが、詩情とともに浮かび上がってくる、極めつきの名作と言えるだろう。
今回の展示では、ペンタックスカメラ博物館に旧蔵され、2010年に日本カメラ財団に移管された、その「童暦」シリーズの代表作を見ることができた。ただし、写真集の『童暦』に収録されたものとは微妙に構図が違う、別カットのプリントも含まれているのが興味深い。植田が、いったん作品を写真集として完成させた後でも、さらに試行錯誤を続けていったことがわかる。それに加えて、自宅近くの弓ケ浜や鳥取砂丘を「巨大なホリゾント」を持つ劇場に見立てて撮影した「砂丘劇場」のシリーズも、あわせて展示してあった。戦前の傑作「少女四態」(1939年)から1980年代の「砂丘モード」に至るまで、この日本には珍しい広々とした開放的な空間が、植田のインスピレーションを常に刺激し続け、魅力的な群像写真の連作として結実していったことが、そこにはよく表われていた。
来年(2013年)は、いよいよ植田正治の生誕100年の年だ。そろそろ、その写真家としての全体像をしっかりとかたちにしていかなければならない時期が来ているということである。

2012/06/15(金)(飯沢耕太郎)

2012年07月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ