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荒川朋子 個展「つぼ」

2017年02月15日号

会期:2017/01/07~2017/01/15

KUNST ARZT[京都府]

荒川朋子は、民俗信仰のご神体や秘教めいた呪具、性器を象った儀礼的オブジェを思わせる木彫をつくり、その表面を体毛のような毛が覆ったり、長い黒髪が垂れ下がる彫刻作品を発表している。コロンと丸みを帯びたフォルムは愛らしいが、ツルツルに磨きこまれた表面は、体毛のような毛が生えることで人間の皮膚を思わせ、グロテスクで何とも薄気味悪い。
加えて本個展では、陶で制作した壺の表面にびっしりと「植毛」を施した《毛の生えた壺》が発表された。表面の滑らかさを嘲笑うかのように、毛穴のような極小の穴から「生えた」無数の毛。それは「皮膚」へと接近し、「彫刻」において捨象されてきた「表面(表皮)」と「触覚性」の問題を前景化させる。「表面に毛を生やす」荒川の作品は、視覚的フォルムと空間に占めるボリュームの問題として制度化されてきた彫刻に対して、捨象・抑圧されてきた「表面(表皮)」及びその「触覚性」を取り戻す批評的試みである。また、「彫刻」がその外部へと排除してきた民俗的・宗教儀礼的なオブジェを擬態していることを合わせて鑑みれば、「彫刻」の制度に対する二重の批評性を胚胎させていると言えるだろう。
さらに、荒川が表面に生やす「毛」の素材が、「つけまつ毛」であることに注目したい。つけまつ毛は本来、女性の目をパッチリと大きく美しく見せるために付けるものだ。しかしここでは、表面をびっしりと覆うまでに過剰に増殖し、グロテスクな変貌を遂げている。「表面の過剰な装飾」という点でそれは、携帯電話や小物の表面をキラキラのビーズやラインストーンで覆って多幸感あふれるオブジェに変身させる「デコ」という現代女性の文化・嗜好とも通じる感性だ。だが荒川は、女性をカワいく見せる「まつ毛」という増やしたいものを過剰に増殖させることで、「毛(ムダ毛)」という除去すべき(とされる)ものへと変貌させてしまう。「美」へのオブセッショナルな欲望が増幅されることで、むしろグロテスクでおぞましいものへと反転してしまうこの転倒した身振りは、女性が抱える「美(=他者からの肯定)」の強迫観念に対する批評としても解釈できる。荒川作品は、「ムダ毛」という、忌み嫌うべきものであるからこそ執拗に回帰してくる存在を「祓い、鎮める」現代の呪具なのだ。

2017/01/10(火)(高嶋慈)

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