artscapeレビュー

ワタノハスマイル展「未来に伝えるキオクのカケラ。」

2013年07月15日号

会期:2013/05/25~2013/06/23

colissimo[兵庫県]

兵庫県篠山市にある旧郵便局舎を再生したギャラリーcolissimo(コリシモ)で、東日本大震災で被災した宮城県石巻市、渡波(わたのは)地区の子どもたちが、避難した小学校の校庭に流れ着いたがれきでつくったオブジェを展示した「ワタノハスマイル展」が開催されていた。これは震災直後から渡波小学校でボランティア活動を行なってきた造形作家の犬飼ともさんが立ち上げたプロジェクトで、現在、全国各地のギャラリーやイベント会場を巡回している。今展では、会場の1階と2階のスペース、廊下、階段など建物全体に約80点のオブジェが展示された。入口で出迎えてくれたのは、郵便ポストに「目」や「耳」をつけた《いたずらポストくん(たかはしみさき)》。「手紙を出す人か出さない人なのかを、耳のセンサーで探している。好きな食べ物は手紙。食べちゃうよ。そして困らせちゃうよ。」という作品解説もあとで見つけたのだが、このように展示されたオブジェには、すべてにキャラクターとストーリーが設定されている。どれも愉快で、ひとつずつ解説を読んでいくとつい顔もほころぶ。それぞれの想像力やセンスにも感心しきりだったが、同時に、それらのがれきが本来はがれきなどではなく、人々の暮らしのなかで機能していたことにも思いが巡った。ギャラリーの高橋さんとともに今展の開催に協力したアトリエインカーブのチーフスタジオマネージャーの林さんが二人で制作、設置した展示台が並ぶ2階のスペースはとくに印象的だった。できたら子どもの目線の高さで見てほしいと、それらの展示台は低くつくられていたのだが、床に座り窓際に展示された作品群を眺めると、窓の向こう側の小学校の校庭も視界に入ってくるのだ。私もそうだが、テレビや新聞、ネットなどを通じてしか被災地の状況を知らない人たちは、震災のリアリティも記憶も直接経験した人たちとは異なり、そして時間が経っていくなかで記憶が薄らいでいたり、忘れてしまうこともある。子どもたちの作品を通して、被災地の人々に思いをめぐらせ、忘れないようにできたらといっていた高橋さんの言葉も印象に残っているが、なによりこの展覧会をこの場所で見ることができたことが嬉しい。


会場風景


旧郵便局舎の建物を再生したギャラリーcolissimo

2013/06/09(日)(酒井千穂)

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